スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ13最終回


チェッカーズの音楽とその時代
の読書メモ最終回。
前回。
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 すごいぞ『Blue Moon Stone』、スージーさんの照れ隠しな「適度に距離取ってます」ポーズをむしりとった。「まごうことなき名曲」から文章始まってるよ。「チェッカーズ全キャリアの到達点」とまで持ちあげている。
 いい曲なのは間違いない。はじめて聴いたときはイントロの清々しさから引き込まれたものである。年に一曲くらいこのレベルの曲が出てくれたらずっと聴き続けるよなあとかも思った。メロディを形容する言葉を探すとすれば「コンテンポラリー」くらいだというスージーさんのコメントもなんとなくわかる。で、スージーさんの切り口「チェッカーズは日本最後のロックンロール・バンド」とこのコンテンポラリー性が矛盾するように感じる人がいることを見越してスージーさん、こんな説明をしている。

チェッカーズ・ファン(かつ意識的な音楽ファン)においては、矛盾を感じる人は少ないはずだ

 なぜなら、ロックンロール(久留米性・ヤンキー性)をベースにしながら、それだけに留まらず、強烈な進取の気性(東京性・コンテンポラリー性)によって、あらゆる新しい音楽性を柔軟に取り込んでいく。それこそがチェッカーズだと理解しているだろうからだ。
 そもそもロックンロールというもの自体が、その時々の新しい音楽性を取り込み、自らの栄養として摂取して進化してきたジャンルなのだから、どこにも矛盾など無いのだ。

 ここを読んだときに「だったら『運命』の評価やり直しましょうよ」と思ったのはおれだけじゃないと信じる(笑)チェッカーズの音楽に矛盾はなくてもスージーさんの言ってることは矛盾してるぞ、たぶん。が、まあ、しかし、この箇所はこう続く。

分母にロックンロール・サウンド、分子にコンテンポラリー・サウンド。この分数から生まれる魅惑的なサウンドビートルズであり、ローリング・ストーンズであり、そして、我らがチェッカーズなのである。

 そこまで持ちあげてるんだから、まあいいかという気もした。ビートルズストーンズチェッカーズって並べ方は大昔に読んだ『X Japan伝説』のバッハ、ブラームスYOSHIKIを思い出すくらいの「盛りすぎじゃね?」感あってとてもよかった。さすが「動脈の中で、チェック柄の血球が、いつも流れている」スージーさんである。『運命』をくささせたのは、この「チェック柄の血球」(要するに胸に刻み込まれたアイドルグループのイメージだ)のなせるわざだったんだろう。
 解散発表が『ミュージックステーション』だったのは言われて思い出した。テレビ欄見て、「へ?」ってなり、番組見たらタモリが「解散するの?」と尋ね、フミヤが「解散しますね」と答えていたような記憶が蘇った。悲壮感なさすぎて「あー、そうなのかあ」くらいしか思わなかったような気がする。引用されているコメントについては覚えていなかった。もちろんスージーさんのように「チェッカーズのことを忘れずに生きていこうと思った」なんてこともなかった。ってか、もうどう考えても強烈なファンじゃないか、このコメント(笑)
 あとデータでこの曲が『夜明けのブレス』より売れていたのがちょっと意外で、それなのにオリコン最高位は7位ってなっているので、売上ピークが発売当初と解散発表直後と二回あったのかなという気がした。発売当初にフミヤがよく「月にチェッカーズと書けばその文字はずっと消えない」みたいなコメントを出していたように思ったんだけど、あれは引用してくれないのか。そこが一番のメッセージだと思っていたのに。

そして、最後の曲『Present for you』に到達。『NANA』以降でいちばん売れたシングル、らしい。けども、最初からエピローグ感満載なのもあって、当時はあんまりいい印象なかったなあ、これ。
 スージーさんも曲がどうこうよりも解散までの逸話を拾って、最後の紅白を詳しく記述している。自分もその紅白はリアルタイムで見ていた。のだけれども、実はそれほど強い印象がない。紅白に至る年末音楽祭系の番組に出まくっていたチェッカーズを見ているうちになんか解散に納得がいってしまったところもあったし、10年前の曲を歌ってる姿からは最近は爆発的ヒットがなかったということを読み取っていたので、まあ仕方ないんじゃないの、残念だけど。くらいの気持ちで大晦日を迎えたせいもあると思う。
 だから、むしろ、びっくりしたのは、そのあとだったんだよね。93年1月発売の雑誌群にチェッカーズの記事が出るわ出るわで、そこではじめて「思っていた以上にインパクトのある出来事だったんだ」とわかった次第。覚えている見出しは「七人が伝説になった夜」で、これは武道館公演を扱っていた。伝説になったあと、紅白出たじゃんって思ったのを覚えている。このへんも社会現象になった時期がリアルタイムじゃないのでボリュームゾーンを形成しているファンの人たちとは感じ方が違ったんじゃないかと今は思う。そんなぼくでもスージーさんの書いた結論には頷けるのがチェッカーズのすごいところだ。「当時、チェッカーズの強烈なファンではなかった」と「はじめに」で書いたスージーさん、「おわりに」でこう言っている。

ファッション性、ビジュアル性、メディアミックス感覚まで考えると、「日本最後のロックンロール・バンド」は「後にも先にも横にも無い、日本唯一のチェッカーズ」だったのではないかと、あらためて感じ入るのだ。

 結局、それなんですよねえ。このワンフレーズ書くために一冊書いたんだから、スージーさんのチェッカーズ愛はなかなか溢れまくっていると思う。ナオちゃん推しな人は「いくらなんでもユウジびいきが過ぎないか」というより、ナオユキの貢献度を低く見積もりすぎではないかと思いそうな本ではあるものの、たぶんそうなった動機は「いくらなんでもユウジが過小評価されすぎではないか」という憤りにあるんだろうから、言わばアファーマティブアクションなんであって、七人全員凄かったんだぞというのが受け取るべきメッセージなんだろう。もちろん、ファンがそれをわかっているのは前提に「おれがユウジをどう語ればいいのか、教えてやらなくては!」っていうような課題を自分に課していたようにさえ、読み終わった現時点では思われるのだった。

 で、何度でも繰り返しますが、シングルのA面だけで一冊作ったのは素晴らしいんだけども、全然食い足りないから、全曲レビュー、六人全員インタビュー、メディアミックス戦略解説、伝説コレクションを一冊にまとめた600ページくらいの本を、今度は照れなしの煽りまくりの文体で、是非続編として書いてほしい。スージーさんが選ぶベストライブ集DVDとかオマケについてくればなおよし。楽しみに待ってるよー。

追記:読書メモ完結。全十三回。以下目次

スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ1 タイトルのメッセージを妄想してみた - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ2 『ギザギザ』から『星屑』まで - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ3 『ジュリア』と『スキャンダル』あるいは「キラキラ」と「チャラチャラ」 - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ4 『不良少年』から『HEART OF RAINBOW』 - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ5『神様ヘルプ!』から第1期まとめまで - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ6 NANA I Love you, SAYONARA - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ7『WANDERER』から『ONE NIGHT GIGOLO』(あるいはみなさんのおかげです)まで。 - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ8『Jim & Janeの伝説』から『Room』まで - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ9 『Cherie』と『Friends and Dream』 - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ10 『運命』から『夜明けのブレス』まで - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ11 『さよならをもう一度』と『Love'91』 - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ12 『ミセスマーメイド』から『今夜の涙は最高』まで - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ13最終回 - U´Å`U

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スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ12 『ミセスマーメイド』から『今夜の涙は最高』まで


チェッカーズの音楽とその時代
の読書メモ第12回
前回。
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で、『ミセスマーメイド』。大好き。
スージーさん評はといえば、

見事にタイトなリズムセクションに驚く。クロベエとユウジの最高傑作コラボレーションと言えるのではないか。エイトビートとシャッフルの中間で、がんがんにスウィングするリズムが、やたらと気持ちいい。また、この曲では、トオルのギターが、そのリズムセクションに、見事に絡みついている。

 うんうん、そうそう。イントロから前半のあいだは、意外とサックスが目立たないんだよねえ。最後は主役なんだけど。ここまでの曲はどれもこれも当時「大人~」と思って聴いてたんだけども、これは「かっけえ大人~」って感じだった(ジャケットも渋い大人感たっぷりだった)。ので、

あえて難点を言えば、当時のフミヤが好み執拗に繰り返していた「V字唱法」が気になるのだ。

と言われても、当時も今も「何言ってるんですか、あれが最高なんですよ!」と言わずにいられない。「メンバー同士のディスカッションの中で異論は出なかったのだろうか」って出るわけがないのだ(確信)。2018-2019のカウントダウンでこれが始まったときは「生で、ミセスマーメイド!」と無茶苦茶感激した。ただ、これに関しては(も?)チェッカーズでの演奏が聴きたかったよなあと。ライブソフトだとホワイトパーティーブルームーンストーンで見たけど、どっちも格好良かった(格好良かったしかいってないのだが、格好良かったしか言うことがないのだから仕方ない)。

 で、スージーさんに異論があるのだが、これって不倫ソングなんだろうか。「あの夏」になかよくなった相手と(たとえば来年また会おうねとか言っていて)「あの日のままのふたりの約束だけで何も知らずにきみを待っていた」ら、相手は会ってないあいだに別の出会いがあって結婚していたって話なんじゃないの? 「白いハンカチ取り出す君の指に何も言えずに唇噛んだ」ってそういう意味なんだと思っていたんだけど、『Cherie』の逆バージョンでミセスが出会いが眩しすぎて嘘ついてた話? この本読むまで不倫ソングだと思ったことが一度もなかったから、結構驚いた。ともあれ、今の時点で考えるなら、いちばん格好いいと思うシングルA面曲かもしれない。それだけに、その次の『ふれてごらん』を聴いたときの落胆は凄かった。「売れるわけねえだろ~」と思った。あまりのことに「大人~」とすら思わなかったのを覚えている。アルバムに入っていたら「いい曲~」って思ったかもしれないんだけど、シングルにすることはなかったんじゃないかと今でも思う。スージーさんも結構困ったようで、ユウジのベースプレイだけ語るって一点突破にかかっていた。

 この本は、ゴシップなど、メンバーにまつわる瑣末事をほとんど無視して、チェッカーズの音楽性だけを深く捉える本であり、つまりは、この曲におけるユウジのベースに「ふれてごらん」と主張する、おそらく史上初の本である。

 と、最後までユウジのベースだった。個人的には、この曲であえて聴き所を考えるなら、ナオちゃんのフルート。きらめく風の妖精たちが飛んでる様子をフルルル~って音で表現していて、聴いているとティンカーベルがフミヤのまわりを飛んでるようなイメージが浮かぶんだよね。
 なんだけども、このCDはカップリングの『トライアングル・ブルース』が格好いいんだよなあ。
www.youtube.com
 どうしてこっちをメインにしなかったんだろう。かなり本気で謎。個人的な話をすると、97年か98年くらいから藤井フミヤの曲すら聴かなくなって、例の本とクロベエ逝去で再結成の可能性も消えて、これでチェッカーズ聴くこともないなあと思ってた私が、突然何かに取り憑かれたかのようにyoutubeを漁って、押し入れの奥から眠っていたCDを引っ張り出してiTunesにインポートし、ずっとチェッカーズばかり聴くようになったのは、一昨年のある日、突然この『トライアングル・ブルース』が勝手に脳内再生されて、「無茶苦茶聴きたい!」って思ったのがきっかけだったりします。なので自分のなかでは名曲認識(確認したら作曲マサハルだった。おれもマサハルメロディーが好きらしい)。この曲がなかったら、たぶんチェッカーズをまた聴きだしたりはしなかったし、スージーさんの本も買ってない。カップリングまで論評してくれたら、この曲をどう料理するのか楽しみにできたんだけどなあ。

 で、「こんなの売れるわけねえだろー」って思った『ふれてごらん』の次に出た『今夜の涙は最高』に至っては「こんなん出してどーすんのさー」って思ったのだった。これは全然受けつけなかった。一回テレビで歌ってるのを見たけど、フミヤがリーゼントでエルビス・プレスリーが使いそうな形のマイクで歌ってて、もう「大人」通り越して「おっさん」に見えたのだった。なんかやる気を感じなかった。まあ、時期が時期だけにという気もする。自分的には解散の予兆を感じた曲。ただ一昨年、たぶんF-Bloodの映像を見たときにこれが歌われていて、それを聴いたときには悪くないと思った。コンセプトは坂本九だったとかそんな話も見たような気がする。

 そして、この曲へのコメント中、本書の帯にもなったあのフレーズ、「チェッカーズは、日本最後のロックンロール・バンドだった」の説明がされている。

 ぱっと見、チェッカーズは、キャロル、ダウン・タウン・ブギウギ・バンド横浜銀蝿という、(狭義の)ロックンロール・バンドの後継と捉えられる。そして83年から92年まで、日本におけるロックンロール・バンドのムーブメントを、孤立無援のかたちで守り続けたと言える。

 しかし、もう少しマクロに捉えてみると、そもそもロカビリーから和製ポップスの時代、そしてグループサウンズ(GS)の時代、そしてキャロル以降と、日本人が洋楽を取り入れてきた歴史には、ロックンロールがずっと基礎を成していたと言える。
 チェッカーズはその末裔(まつえい)であり、かつ、その後のシーンの変化まで見据えると、実は「日本における最後のロックンロール・バンド」と言えるのではないか。

 92年リリースのこの曲は、すでに絶滅危惧種となりつつあった「ロックンロール・バンド」としての底意地のようなものだったのではないかとのこと。そう思って聴き直すと、なんかロックンロール・バンドのプライドが乗っているように感じられるから不思議だ。少なくともこの曲に関しては、スージーさんの文章を読んだあとのほうが好きになった。

追記:読書メモ完結。全十三回。以下目次

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スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ2 『ギザギザ』から『星屑』まで - U´Å`U
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スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ11 『さよならをもう一度』と『Love'91』


チェッカーズの音楽とその時代
の読書メモ第11回。
前回。
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 さて『さよならをもう一度』に到達。スージーさんのコメントはどうじゃろ。

 売上枚数は14万枚に逆戻り。さらには最高位が7位。これはデビュー曲の《ギザギザハートの子守唄》の8位以来という低水準。低水準とは言え、ベストテンに入っているのだから、立派と言えば立派なのだが――いや、やはり凄く立派だろう。皮肉っぽい言い方をすれば。
 というのは、この曲、私にはいよいよチェッカーズらしさの薄っぺらい、普通の歌謡曲に聞こえたからである。これで7位というのは立派立派。「何があってもチェッカーズのシングルを買い続けるぞ」という、根強いファンの存在を感じずにはいられない。
(中略)
とにかくこの曲は、私には、いわゆる歌謡曲に聴こえた。チェッカーズらしさを感じることが出来なかったのだ。

 自分はこの曲嫌いじゃないので、このコメントにはいささかぎょっとした。地味でメリハリはないけど、全体いい雰囲気で進んで終わると思うんだよねえ。個人的にはB'zの『もう一度キスしたかった』とかと似た系統の曲ではないかと思っている(どっちか聴くともう片方を思い出すのだ)。チェカーズらしさという点についても、スージーさんがたびたび使うもんだから、そういやチェッカーズらしさとはなんぞやと考えるようになったんだけど、昔も今もメンバーの7人(厳密に言えばサポートふたり入る)が音と声を作ってることくらいのゆっるーいイメージしかない(しかし、本書で繰り返される再結成待望論みたいのを見るに、このゆっるーいイメージでさえスージーさんとは意見が合わない気がする。クロベエいないんだから再結成なんて問題外の外でしょと個人的には思うから、本書で再結成の話題が出て来ると割にイラッとするのだった)ので「らしさがない」と言われてもピンとこない。この曲で言えば、サビにかぶさる「♪kiss lonely night」「♪kiss throught the nihgt」とか、間奏のサックスとか、どう聴いてもチェッカーズ藤井フミヤチェッカーズになっているという指摘なら多少頷けるんだけど)。
 ピンと来ない曲でも何か書かなきゃいけない以上、なぜピンと来ないかを語りましたってことなんだとは思うんですけどね。で、思うのがシングル曲のA面だけ全曲紹介割り当てスペースすべて同じっていうコンセプトがここでは苦しかったんじゃなかろうか。もし、カップリング(あるいはB面)も紹介できるなら、『Hello』を中心にしてお茶を濁すことだってできたわけ(その場合はフミヤのあのラップどうなの? みたいなことが書かれそうだけど)で。ライブで聴いたほうがいい曲ってファンのコメントが載っていたのだけど、そうなんだあという印象。見たことのある映像だと動きなさすぎて、音源のがいいかなって思ってた。

 そして『Love'91』。わたくし、これが最初に買ったチェッカーズのシングルでございます。本書の感想にこう書いた。

個人的な話をすると、この『Love '91』 は初めて買ったチェッカーズのシングルで、たまに「なぜに最初気に入った曲が『Room』(1989)だったのに、シングル買うまでにこんなに間が空いたのか」と考えて答えが出ていなかったのだけど、今回この本読んで謎が一つ解けた気がした。露出が減ったので、飢えが出たのだ、たぶん。

 たぶんそういうことだったのだと思う。この曲に関してはテレビで見た記憶がまったくない(から、去年くらいこれを歌っているチェッカーズの映像を見つけたときはびっくりした)。正確に言うと、『運命』からこの曲まででは『夜明けのブレス』しか当時テレビで見た記憶はない。露出の量と売上がきっちり連動していたんじゃないかと思われる。『夜明けのブレス』については楽曲がよかったこと以上にフミヤの結婚が報じられたのが売上アップにつながったんだろうなあとか、この本の売上データ見て思った。
 それはさておき、そんなわけで当時、前情報ゼロで発作的にCDを買って聴いた私、わりと困ったのだった(笑)聴きたい曲のイメージは『Room』みたいなやつ、出てきたのはスッカスカの音で青空広がるようなイメージ。すげえギャップがあった。こ、これが大人の音楽かって思ったのと、フミヤの声が綺麗って思ったのはよく覚えてる。あとね、歌詞に出てくる風物がいちいちわからなかったよね。アンテナの低い中学生だったから。「立ち止まる一枚のウォーホル」の「ウォーホル」がわからないから「水色のマリリン・モンロー」もわからない。「プライスカード」もわからないから「ゼロを数えながら」の意味もわからない。「盗んでほしいと無茶を言う」はわかった。で、場面が見えてないから「まわりを見渡し突然キスをした、これでもう君のものさ」も誰が誰に(誰にと思ったんだ)キスをしたのかもわからないという。大人の世界は遠かった。
 逆にカップリングの『チャイナタウン』は不思議なことに前奏から親しみが持てたんだけど、今なんでか考えてみたところ、中国っぽい雰囲気を出そうとした前奏の頭のところが、ファミコン版『ドラゴンボール』のBGM(といっていいのかどうかわからないんだけど、ステージが始まるまえのところで鳴っていた曲)と似てたからだった。
 当時は「弾き返された」感だけが残ったこのシングル、その後感想が変化して、よくこれシングルにしたなあって思うようになった。冒頭の高杢の低音から入って最後まで綺麗にまとまってるし、いい曲だと思っているんだけど、売れる売れないで言ったら当時の売れ線からは遠く離れてたように思う。いや、それを言ったら、この曲が売れ線になるような時代はあったのか? と書いて、なんかのインタビューで「もう何していいかわからなくてとりあえず作った」みたいなことを読んだ記憶が蘇った。スージーさん曰くこの曲は曲調がドゥワップでリズムはロッカバラードでチェッカーズの原点みたいなものだと仰有っているが、たしかにそうなのかもしれない。というか、そうなんだろうと思いつつ、よく考えると、原点に戻るとこの曲になるバンドが社会現象になるくらい爆発的にヒットして10年間第一線にいたの、結構衝撃的じゃない? ええと、この曲知らない人、ちょっとここから試聴できるので、聴いてみてほしい。

 売れたバンドが成熟してここに至ったんじゃなく、これが原点だった(これは正しい捉え方)バンドがあれだけ売れたと考えると、チェッカーズを把握するのにその音楽性というアプローチはどれくらい有効なんだろうか。曲の善し悪し(いいんですよ、もちろんいいんです)はともかく、それですっきりと魅力の正体がわかったりするんだろうかと今更ながら疑問になってきた。ことに自分などは、この曲を聴いて首を傾げ、よくわからんと思ったのに、そのあと『I Have a Dream』出るよってテレビCM見て、お店に走っただけに、音楽性云々とは違う魅力を感じていたのではないかと今から考えると思うんだよねえ。とはいえ、たとえば音楽性なら色々話すことも出てくるだろうけど、「藤井郁弥の声がいい」とかだとそこで終わっちゃうから、音楽性ってアプローチも必要ではあると思う。

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操曲入門口伝之巻

 三月に柴田宵曲マイブームが到来して、現時点でこれだけ読んだ。
Life MUST Go on: 柴田宵曲 『古句を観る』
Life MUST Go on: 森銑三・柴田宵曲 『書物』
Life MUST Go on: 柴田宵曲 『明治の話題』
Life MUST Go on: 柴田宵曲 『俳諧随筆蕉門の人々 』
Life MUST Go on: 柴田宵曲 『新編俳諧博物誌』
Life MUST Go on: 柴田宵曲 『随筆集 団扇の画』
Life MUST Go on: 柴田宵曲 『子規居士の周囲』


 当然、どんな人なんでしょとか思ってウィキペディアの項目を覗いたこともあった。
 で、ウィキペディアの記事だったか、上記諸作品の解説だったかで、宵曲が三田村鳶魚の手伝いをしていたことを知った(『団扇の画』には、宵曲が鳶魚をテーマに書いた一遍も収録されている)。その流れで鳶魚の作品も読んでみようかいねと思ったのだけど、どっから手をつけていいのかわからない。青空文庫も鳶魚についてはまだまだ寂しい状況だ。さてはてと思いつつ、図書館で検索をかけてみたら、『未刊随筆百種』というシリーズがヒットした。写本でしか存在しない種本を活字にして出したということだろうと、見当がつき、鳶魚の作品を読んでみようかねからはズレるけれども、鳶魚の種本を覗いてみるのもいいかもしれんと一冊目を借りてみることにした。もちろん通読なんてできないだろうから、ぱらぱら見て、興味を覚えるものがあればそれだけ読むかくらいの気分だった。収録されていたのは「岡場遊郭考」「操曲入門口伝之巻」「新役龍乃庖丁」の三作品。「岡場遊郭考」はイラストたっぷりなものの、どう読んだらいいのかわからない(とっつきにくかった)ので、絵だけ眺め、「新役龍乃庖丁」は留守居役について語られていたけど興味が持てず、唯一楽しく読めたのが「操曲入門口伝之書」。内容はといえば、人形浄瑠璃についてで、動かし形のハウツーとかを五十三の和歌にしたよって感じ(数えてみたら歌の数は五十二だったけど、本文のまま五十三ってことにする)。じつは津原泰水も好きで、『たまさか人形堂物語』(amazon)と、その続編『たまさか人形堂それから』(amazon)はお気に入りのシリーズのひとつなのだ。そういうわけで、人形かと前のめりになった部分もある。脱線するけど、『たまさか人形堂』シリーズのある短編を読んだときには、生まれて初めてリカちゃん人形が欲しくなり、物欲も外からやってくるのだと驚いた。傑作である。
 あだしごとはさておきつ、「操曲入門口伝之巻」の序文めいた冒頭では

其傀儡の始る事甚遠し、されば事物紀原を稽れば、漢高祖平城に囲まれし時、陳平が策略を以て、木にて美人の形象をつくり、敵を偽りて勝利を得たり、是ぞ今行はる人形といふ物の権輿と見へたり、されども又列子を閲すれば、周穆王の時に、偃師といへる巧人あり、木にて人の形をつくりて舞はしむ、王その后と倶に是を観たまふに、此人形舞畢りて、目を瞬し、手を以て王の左右を招く、王怪しみ怒りて偃師を殺さんとす、偃師怖れて人形を壊して見せければ、漆膠をもってからくる者也.王是を見て大に其妙巧を感じたまひ、褒美を賜はりし

 と、古代から説き起こし(一文字目は「それ」と読み「傀儡」は「かいらい」で操り人形のこと)、人形という言葉の最初は殷の時代の~とか、日本で最初に人形の話が記録されたのは推古朝で~とかに軽く触れたあと人形遣いの名人たちを紹介したり浄瑠璃という名前の由来を語ったり、これこれのギミックはこのときできたみたいな話をしたあと、

人形遣ひ方の事は、其旧(もと)三議一統の書より起り、陰陽自然の事に帰す、深長に至りては草紙の上の沙汰に及ばずといへども、其大概を五十三首の和歌につゞりて、覚へ易からしむる事左の如し、

 と述べてメインのパートが始まる。歌にしたっていうのは、今だったら語呂合わせにしたみたいなもんなのかもとか、「はじめチョロチョロ、中パッパッ。赤子泣いても蓋とるな」みたいなもんかななどと思いつつ読み、それなりに楽しめた。
 それなりに楽しめたとなると、ほかの人にも紹介したくなるものであるが、軽くウェブを検索してもこいつのテキストは出てこなかった。著作権的にはとっくにパブリックドメインな作品でも、江戸時代までのものだと、校訂をした人に権利が発生するから、なかなかさわれないという話は知っているので不思議なことではないと思ったところで閃いた。この本(昭和2年刊)を底本にすれば、校訂者の鳶魚の著作権だって切れてるんだから絶対に問題ないだろう。
 ということでポチポチと入力を始めた。できあがったあとはそのままアマゾンのKDPへ。一昨日レビューが終わり、発売開始になったのがこれ。

 底本は旧字体なのだが、漢字変換の手間と読みやすさを鑑みて新字体にした。はじめのうちわかると思ったところにはルビを振りながら作業していたのだけど、アマゾンにファイル提出する段階で「巻」は「カン」って読むの、それとも「まき」って読むの? という疑問がわき、あれこれ検索するうちに、淡路人形芝居資料館のフェイスブックアカウントにぶつかり、そこで本文の写真を見ることができた。
淡路人形芝居資料館 - 引田家文書(上村源之丞座旧蔵資料) 「操曲入門口傳巻 そうきょくにゅうもんくでんかん」 ... | Facebook

引田家文書(上村源之丞座旧蔵資料)
「操曲入門口傳巻 そうきょくにゅうもんくでんかん」
 
 『口傳巻』は人形操りの心得を五二首の和歌と十三条の条文(口伝)で表したもの。人形遣いのバイブル的なものですが残念なことにあまり知られていません。

「二〇世紀における人形浄瑠璃の総合的研究」
 第一部 共同研究『操曲入門口伝巻』
PDF: https://researchmap.jp/mu2dqd5q6-48957/

音曲の司「操曲入門口伝之巻」
http://www.oneg.zakkaz.ne.jp/~gara/ongyoku/jouhou39.htm

 なるほどお、「かん」かあと思った直後、よく見ると字面が違っている(「之」がない)。紹介されているPDFをざっと眺めたところ、底本にした本は今の目から見ると写し間違いが色々あり、タイトルも写し間違っているということが判明した。であるならば、タイトルは間違っていることを踏まえて「かん」ではなく「のまき」でいかねばなるまいとタイトルの読み方は決まった。
 で、せっかく写真で本文見せてもらってるから、振ったルビについても確認確認と一行目から見ていったら、上記引用箇所内の「陳平が策略を以て」ってところ、「策略」って単語のルビが「さくりゃく」じゃなくて「はかりごと」に見える。そういえば、馬琴読んだときにもちょっとひねったルビがいっぱいついていたなあと思い出し、原文なしでルビが触れないことを痛感する。結果、振ったルビはほぼ全部消した。残っているのは底本のルビと一箇所だけ、これはないと読めないと思って加えた𪜈(←「とも」と読む。カタカナの「ト」と「モ」がくっついている)のとこだけ。ルビを消してから思ったんだけど、鳶魚はどうしてルビを無視したんだろうね。面倒だったのかな(画像見ると総ルビっぽいし)。個人的には総ルビで振っておいてほしかった。結構好きなんだよね、「策略」を「はかりごと」と読むみたいなルビ。上記PDFの37-38ページには

淡路人形研究家の中西英夫氏が調査をおこない、それらの翻刻を順次発表したのである③。『口伝巻』の翻刻は、一九九八年に「淡路人形浄瑠璃史料紹介五引田家文書その五」として、雑誌三原文化第五四号に掲載されている(四一-五五頁)
(中略)
その後『口伝巻』の影印と翻刻は二〇一一年に出版された『淡路人形浄瑠璃元祖上村源之丞座座本引田家資料』(引田家資料調査委員会、南あわじ市・財団法人淡路人形協会)に収録された。『口伝巻』を研究に用いる環境が整ったといえるであろう。

と書いてあるので、運がよければそのうち精度の高い翻刻を拝めるかもわからない(アマゾンではヒットしなかったし、古書サイト見ても「売り切れ」。いまだ値段すらわからずだけど)。っていうか、それこそ電子書籍にして売ってくれればいいのにと思わないでもない。
 なお、今回KDPした作品のお値段は216円に設定した。なお、電子書籍だとアマゾン以外のところでは、『未刊随筆百種』の復刻版(巻数が違っているようだ)を発売しているところもあってお値段大体2000円くらいだった。目に入ったやつは固定レイアウトになっていたけど、これはイラストだか挿絵だかの量が多いものもあるだろうから致し方ないというところか。「操曲入門」に関しては挿絵らしい挿絵はひとつしか入っていなかったので、フローレイアウトが可能だった。
 正直ニーズがあると思っているわけではないのだけど、以前キリル文字を入力しなきゃいけない成り行きになったときに、十年くらい前に作られた入力支援スクリプトのおかげでかなり助かったことがあり、作成者が「ごく微量のニーズに応えて」と言っていたのに倣ってみた。十年間で五部売れればいいくらいに思っている。(念頭にある読者モデルは、海外在住で日本語資料へのアクセスが難しい人形浄瑠璃研究者という、ほんとにいるのかどうかわからない人物。しかし、その人のために全Amazonで購入できる設定にしてある)。まあそれでも告知くらいしないと、万が一の読者とぶつからなくなってしまうかもしれないので、いちおう宣伝めいたエントリーを作成させてもらった。興味がある方のお越しをのんびりお待ちしております。


操曲入門口伝之巻


追記:思いついて神奈川権利図書館で検索してみたら『淡路人形浄瑠璃元祖上村源之丞座座本引田家資料』がヒットした。そのうち眺めにいこう。

スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ10 『運命』から『夜明けのブレス』まで


チェッカーズの音楽とその時代
の読書メモ第10回。
前回。
gkmond.hatenadiary.jp
 『チェッカーズの音楽とその時代』を入手するまでに眺めた限りでは、ツイッターなどの感想でいちばん言及されていた曲は『運命(SADAME)』だった。で、見た限りじゃみなさん奥歯にものが挟まったような言い方だったので、何が書いてあるんだろうと思っていたのだけど、現物読んでみて「なるほど~」ってなった。すごいキラーフレーズが入っていた。「チェッカーズらしさがすぽっと抜けている」である。引用したいところが長すぎて、本文の半分近くになってしまうので自粛するけれども、なんか目茶苦茶言ってないか? という感じがした。読み解く鍵は最後にあった。

言わば、解散という「運命」への前奏曲。大好きだったチェッカーズが、80年代に閉じ込められていく。

 正直、一読何を言っているのかわからなくて困ったのだけど、これは90年代のチェッカーズチェッカーズらしさを失っていた抜け殻だったとかそういうことが言いたいんじゃなくて「ぼくの大好きだったチェッカーズ」が「80年代に閉じ込められていく=変わってしまった」という一ファンの悲鳴ではないかというところに落ち着いた。そう思って眺めると、この曲に対する感情的には全否定したいような姿勢もまあわかる。ただまあ、そう考えてじゃあ大好きだったチェッカーズのイメージってどんな? と、逆算してみると「久留米のヤンキーが東京の大人にGSパロディーのアイドルに仕立てられて無国籍オールディーズを一生懸命歌う」って初期のイメージだったんじゃないかという気がして、「私は当時、チェッカーズの熱烈なファンではなかった」ってまえがきの文章との整合性どうすんのよ、って話になるんだけど。熱烈じゃない割に、イメージからの逸脱に不寛容すぎるでしょ(笑)
 まったく、曲の中身について言及してないのも、「こんなのはチェッカーズの曲じゃないやい」ってふうに見えて仕方ない。
 ↑これ、難癖かなあと思いつつ書いたんだけど、本文読みなおすと、

GSのようなキュートな見てくれで、キャロルのようなロックンロールを奏でる7人組。それがチェッカーズだった。

 ってあるから、まあ、それほど外れてもいなそうだ。自分は本書の感想(こちら)で、チェッカーズは「本書のアプローチが包括しきれていないくらい凄い。」と書いたんだけど、上のような流れで「それがチェッカーズだった」と言われても全然ピンとくるところがない。後発でチェッカーズを知ったので、「昔はバリバリのアイドルだった」はむしろ「意外な一面」にしかならなかったからねえ。むしろ、つねに変わり続けた(その象徴がたぶんフミヤの髪型なんだけど)ダイナミズムにこそチェッカーズの核があったんじゃないかという気が、この本を読んでいてするようにもなった。いやだって、『運命』を取り込めない「チェッカーズらしさ」なんてあり得ないでしょ。イントロから燃えるし、コーラスワークも全盛期入ってきたって感じの格好良さだし。『素直にI'm Sorry』が90年代Jポップを予見したって言うなら、この曲の歌詞(たとえばこちら)なんて、今世紀初頭のセカイ系を予見してるって言ってもいいくらいの出来だし。
 ただ、このくだりを見て、「そういうことだったのかも」と思ったのは、当時のメンバーによる全曲紹介みたいな奴のコメントで『OOPS!』は前向きに倒れた失敗作でファンがついてこなかったみたいなことが複数回言われてて、どんなアルバムだろうとおっかなびっくり買ったわけ、こんなやつ。


 で、再生したら、これが当時の自分的に(正確に言えば今に至るまで)最高のアルバムで、なんでこれが失敗作扱いなのかずっとわからなかったんだけど、もしかすると、ファンのイメージするチェッカーズの自由さを超えちゃってたってことだったのかもしれない(いや、たしかリーダーはミックスが甘かったとかそういうことを言っていたので、複合的に見たうえで失敗って言ってるんだろうけど)と、スージーさんの『運命』評見て思ったのだった。あー、あと、帯の素敵なキャッチコピーにして、本書の中心コンセプト、

今、あえて言おう。チェッカーズは日本最後のロックンロール・バンドだった。

 と、『運命』の相性が悪すぎたってのも、この曲の評価につながったのかもしれない。コンセプト的には、『運命』ないほうがやりやすかったのかも。

 しかしおれはここで、読書メモ1で書いたことをもう一度言いたいのだ。スージーさん、昔も今も、(ひょっとすると本人が自覚してる以上に)チェッカーズ好きだから、「好きでもないのに仕事で書いた」とか言わないであげて。
 どんだけ好きかって証明のために、1で引用した箇所再引用するよ。

さて。先に白状すれば、私は当時、チェッカーズの強烈なファンではなかった。チェッカーズよりも、ビートルズレッド・ツェッペリンはっぴいえんどなどの方を好んで聴いている若者だった。

 でも、そうでなければ見えて来なかったものもあると思っている。ユウジのベースの向こう側にポール・マッカートニーを、マサハルのメロディの向こう側に、ロイ・オービソンを、そしてフミヤのボーカルの向こう側に沢田研二を見据えることが出来たのは、リスナーとして色んな回り道をして来たからという自負もある。

 冒頭の「強烈なファンじゃなかった」が目立つわけだけど、最後とよく読んでみてほしい。スージーさんが自負してるとこ。これは「すべてはチェッカーズ理解するためだった」って言ってるわけでしょ。なかなか言わないでしょ、こんなこと。凄いファンだって。でもって、おれの印象では「にもかかわらず総てを把握できているわけではないほどチェッカーズはお化けバンドだった」ってのがくっつくんだけどさ。

 万が一、『運命』を聴いたことのない人が、この駄文を読んでいる場合に備えて、最後に『運命』の動画も貼っておく(っていうか、自分が見たいだけだったりする)。

youtu.be

出典はこれ。

 で、次が『夜明けのブレス』。対抗馬が上で紹介した『OOPS』に入ってる『100Vのペンギン』だったと聞いたことがある。そっちをシングルで出していたら二曲連続でコケていたんだろうか(自分としては『100Vのペンギン』がシングルになってたら喜んだと思うんだけど)。そして意外にも、マサハル作曲なのに、スージーさんは苦手だと仰有る。「けれん味の無さが、作曲家マサハルの魅力と知りつつ、さすがにシンプル過ぎないか」「歌詞について、『結婚祝賀曲』狙いとしても、内容がスウィート過ぎる」。
 うん、わかるよ。これ、男が褒めるには照れくさい曲だよね……だから、妙な方向にコメントも迷走してる感じがあるんだけど、できればここは「1オクターブだけで作られたメロディと個別性のかけらもない歌詞はすぐそこまで来ていたカラオケブームの到来を予見していたのかも知れない」くらいのことを言ってお茶を濁しておいて欲しかった。数字を見る限り、ここまででメンバーオリジナル曲最大のヒット作なんだし。いや、だからこそケチをつけたいファン心理もわかるけど。
 自分はこの曲出たとき中学生で、クラスメートたちと行った生涯初カラオケでほかの人がこれを歌ってるのを聴き、「売れてるんだなあ」と思った記憶がある。歌詞もメロディーも覚えやすくキーも楽だから誰でも歌える曲って印象だった。何度も聴いているうちに飽きたなと思った時期もあったけど、最近は結構好き。
 で、スージーさんの評を読んでいて、なんとなく思っただけなんだけど、この曲のカップリング『Space Lovers』っていうんだけど、(記憶違いでなければ)チェッカーズの曲で唯一宇宙を舞台にしたSFソングで七万光年の距離を超えて四千時間かけて地球の恋人に会いに行くって話なのね(香取慎吾チェッカーズの好きな曲に挙げていたこともある)。これさ、もしかすると、『夜明けのブレス』があんまりにもド直球だったから、フミヤもちょっと照れくさくて、その反動で書いた歌詞だったりするんじゃないかなあ。当時聴いた時はひたすら「英語のアナウンスがわからない、どこ喋ってるんだ」って、一生懸命歌詞カード睨んでた記憶がある。ちょっと面白い曲なんだ。

追記:読書メモ完結。全十三回。以下目次

スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ1 タイトルのメッセージを妄想してみた - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ2 『ギザギザ』から『星屑』まで - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ3 『ジュリア』と『スキャンダル』あるいは「キラキラ」と「チャラチャラ」 - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ4 『不良少年』から『HEART OF RAINBOW』 - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ5『神様ヘルプ!』から第1期まとめまで - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ6 NANA I Love you, SAYONARA - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ7『WANDERER』から『ONE NIGHT GIGOLO』(あるいはみなさんのおかげです)まで。 - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ8『Jim & Janeの伝説』から『Room』まで - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ9 『Cherie』と『Friends and Dream』 - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ10 『運命』から『夜明けのブレス』まで - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ11 『さよならをもう一度』と『Love'91』 - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ12 『ミセスマーメイド』から『今夜の涙は最高』まで - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ13最終回 - U´Å`U

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チェッカーズの音楽とその時代


チェッカーズ・オールシングルズ・スペシャルコレクション(UHQCD) 

スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ9 『Cherie』と『Friends and Dream』


チェッカーズの音楽とその時代
の読書メモ第9回。
前回。
gkmond.hatenadiary.jp


さて、スージーさんのお気に入り『Cherie』に到達したぞ。まずはコメントを見てみようじゃないか。

「第2期チェッカーズ」屈指の名曲。再評価が強く待たれる曲。さらに言えば、この曲の再評価のために、この本を書いているふしすらあるほどの。

 凄いストレートに好きなの伝わってきて、ここまでのほとんどの曲の扱いとのギャップにびっくりした(笑)節の最後じゃこうも言ってる。

「第2期チェッカーズ」屈指の名曲は、時代を超えた名曲である。なぜならこの曲は、そもそも89年の段階で、89年という時代を超えていたのだから。

 書いてるときにテンション高すぎたのか「『素直に~』が90年代Jポップを予見した」的な切り口すら用意せず、こう言いきっているので、なんでそうなるのかはわからないが、この曲があったから2019年にチェッカーズシングル総まくり本なんてものが出版されたとすれば、そりゃ名曲に違いない。
ということで、とりあえずどんな曲か聴いてくれ。
www.youtube.com

出典はこれ。

 個人的にはこの曲のキモってイントロのサックスじゃないかなあと。清々しい青空が広がる感じがいつもする。あとあんまり自信がないんだけども、イントロにコーラスの声(チュルッチュ、チュルッチュチュチュ~みたいなの)が入ってるシングルって初めてだったような、いや、『あの娘とスキャンダル』の冒頭があるのはわかってるんだけど、そうじゃなくて、音として人の声を使うみたいなやつ。マサハル作曲のホップステップジャンプのジャンプにあたるというスージーさんの指摘に乗っ取ると、『Wanderer』(オ、オ、オ、オー)『Jim&Jane』(We used to dream to be like Jim & Jane~)、そしてこの曲と、イントロで人の声を使うやり方が洗練されてきたと言えるかもしれない。マサハル作曲、イントロに人の声の最高作は『ミセスマーメイド』だと思うので、ジャンプは二段階ある気はするけども。イントロ一発目の吹きぬける感じのまま、のんびりした気分になれるいい曲なのは間違いない。
 リアルタイムで聴いたとき? じつは「聴きたいのはこれじゃねええええ!」って思いました。シングル集め出したときもこれは『Best』っていうので済ませたので、カップリング曲は一昨年配信で買った。何でかってそりゃまえの『Room』が好きすぎたせいでしょう。この曲は当時の自分的には丸くなりすぎてる気がした。今は感じ方が少し違うところもある。なにせ生で聴いてしまったという事情もある。カウントダウンにこの曲歌ったのって、スージーさんの記事の影響もあったんじゃないかと思ってたりする。
 で、おれが『Cherie』に感じたことをスージーさんは次の『Friends and Dream』に感じたようで、

個人的には、何と言っても《Cherie》という、そびえたつピークの後であり、当時としても印象が薄かった。

 自分なんか逆に「今回は結構いい曲」と思った口。途中の語りとか好きだったなあ。このあたりから歌番組が激減してきて、ぼんやりしててもチェッカーズの曲が耳に入ってくるって頻度はだいぶ下がったような印象がある。なおスージーさんは「来たるべき解散を食い止めるためにフミヤがしかけたメッセージソング」にも聞こえると仰有っていて、これはこれで面白い解釈だなあと思った。高杢を励ますために書いた曲だって話もあったような気がするけど、それはそれとして。憶測が許されるなら、解散とかじゃなくて売上が鈍ってる状況(前作『Cherie』はオリコン最高位5位でこの時点でのチェッカーズ史上最低の到達ランクだったらしいし)に対してみんなを鼓舞する意図があったとかも読めそう。「大丈夫、ボロボロでもまだ飛べる」って。あ、でもそうすると「思い出の半分はいつまでもあいつらさ」のあいつらって誰ってことになるか。あいつらがメンバーだったら「We can still fly」が「これからも一致団結」って意味にならんかも。うーん、これがメンバーを鼓舞する曲だったら、そのあと『運命』への路線変更(スージーさん曰く)への必然性もありそうだったんだけど、ちょい強引かも。危機感はあったんじゃないかなあって今から考えると思うんだけどね。当時読んだインタビューでフミヤがベテランになってきたから後続のスーパーグループ(おれの読み取りでは光GENJIだったので、当時は意外に思ったのである。アイドル時代がリアルタイムじゃないと同じカテゴリーに見えない)が出てきても心配はしてないみたいなことを言ってた記憶あるんだけど、あれも危機感の裏返しだったのかもしれないし。

追記:読書メモ完結。全十三回。以下目次

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スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ2 『ギザギザ』から『星屑』まで - U´Å`U
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万歳三唱のはじまり

『日本歴史故事物語(下)』という本がずっと本棚の肥やしになっていて、スペース空けるために処分しようかと思い立ち、念のため目次を眺めてみたところ、「万歳三唱のはじまり」という小見出しが目に留まったので読んでみた。だってそんなもんのはじまりなんてわかってると思わないじゃないか。
 この本によればはじめて万歳三唱がなされたのは1889年2月11日だという。その日は帝国憲法発布の日だったそうな。で、明治天皇が代々木練兵場で観兵式を行うことになっていた。

 そこで、東京第一高等中学校(後の旧制一高)では、生徒一同、宮城前で、お迎えしようではないかということになった。しかし、ただ並んでお迎えするのではもの足りない。外国には、フランス語なら「Vive la France!」とか英語なら「Save the King」とかみんなが叫ぶことばがあるが、日本にはない。
 大学の先生たちが集まって、天皇にたいしてあげる歓呼の声はないものかとよりより協議したあげく、経済学の和田垣謙三(わだがきけんぞう)博士が提議した「万歳 万歳 万々歳」に衆議が一決した。
 しかし、生徒がいっせいに大声を出して天皇の馬車の馬がおどろいてはいかんと宮内省にあらかじめ連絡した。
 当日、馬車が二重橋をでた。高らかに万歳の声があがった。第一声である。ところが馬がおどろいて棒立ちになり前足をバタバタやりだした。第二声は小さい声になり、第三声「万々歳」は唱えられなかった。かくて万歳だけが唱和の声として残ったという。

 新しかったのね、万歳って。この話の出典が書いてないからよくわからないのだけども、フランス、イギリスの例を引いて考え出したのに、出来上がったものが何を称えているのかわからなくてロシア語の「ウラー」(意味はよく知りません)みたいな感じになっているの、すげえわが国っぽいと思ってしまった。比較的トップダウンだったのか(ぼんやり読むと「生徒一同」が「お迎えしよう」って言いだしたように読めなくもないけど、うしろとの兼ね合い見ると先生たち主導で学生動員したんだろうね)ってのは、まあそんなもんかもしれんって感じで、やってみたらうまくいかなくて尻すぼみってのはありがちな話に思える。
 ともあれ、起原がわかってるなんてかなり意外。この本を処分するのは読んでからにしようと考えなおしたのだった。


日本歴史故事物語 下 (河出文庫)