例のゲームの件について。結論はないよ!

 昨日だか一昨日だかに、こんな記事を読んだ。
日本製「性暴力ゲーム」欧米で販売中止、人権団体が抗議活動 : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

 少女を含む女性3人をレイプして妊娠や中絶をさせるという内容の日本製のパソコンゲームソフトに海外で批判が高まっている。


 日本での販売中止を求める抗議活動を国際人権団体が始めた。このゲームは2月に英国の国会で問題になり、ビデオ・書籍のネット販売大手「アマゾン」が扱いを中止した。しかし、児童ポルノなどの規制が緩い日本では今でも流通している。

 このゲームは、未成年と見られる女子2人とその母親を電車内で痴漢した後にレイプし妊娠や中絶をさせるまでを、コンピューターグラフィックスを使った画像で疑似体験するという内容。横浜市のゲームソフトメーカーが2006年に売り出した。

 今年に入り海外の人権団体で問題視されるようになり、英国ではこのゲームをアマゾンで入手できることに驚いた国会議員らが同国内での流通に反対する動議を提出した。こうした動きが英国などのメディアで報じられ、英国アマゾンは2月にこのゲームの取り扱いを中止。米国のアマゾン本社も取り扱いの中止を公表した。


 えーと、最初に思ったのは、「またですか! これだからこの手の団体は!」だったんだけれども、二日に渡ってあれこれ考えていたら、意見が変わってしまった。他のところで言ったように法規制には反対。でも文句付けた団体に対して文句を付けたのが気に入らないと言わんばかりの反応は違うと思うんだ。
 ってのは、なんでエロゲのしかも上記引用みたいな内容のもののために、「ムカつく消えろ」って発言をぐっとこらえなくちゃいけないのかって気がしてきたからだ。
 と、思うきっかけになったのは、なんとこのエントリ。


弁護士山口貴士大いに語る: 【新たなる】日本製「性暴力ゲーム」欧米で販売中止、人権団体が抗議活動【外圧か?】

具体的な被害者がいない以上、規制することは大いに問題があるでしょう。

「女性に対する差別や偏見を助長する」というのは、表現を制約する根拠にはなりません。批判し、非難することは当然としても、発売禁止を求めることは間違っています。と言っても、ああいう人は聞かないんでしょうけどね。

① 女性差別撤廃条約 5(a)は、エロゲーを含むポルノグラフィの規制を批准国に義務付けていません。

② 日本国憲法第14条は、エロゲーを含むポルノグラフィの規制を日本国に義務付けていません。ていうか、「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」という条文から、政府に対するポルノ規制の義務を読み込むという非常識な解釈は聞いたことはありません。旧司法試験の答案なら不合格間違いなし。

③ エロゲーはただのフィクションです。女性差別や女性に対する暴力を助長するものではありません。

④ エロゲーに被害者はいません。生身の人間と創作物であるキャラクターを同一視すべきではありません。

⑤ エロゲーがほぼ自由に販売されている日本の性犯罪率はダントツに低いです。Equality Nowの活動拠点は、ニューヨーク、ロンドンとナイロビにあるようですが、東京の方が絶対に男性・女性を問わずに安全です。

2009/05/10 New!②
⑥ エロゲーユーザーのかなりの割合は女性ですし、女性向けのエロゲーというものも存在するのですが・・・。
女性差別/偏見助長という観点からエロ批判する人達の最大の弱点ですね。

<反論終わり>


 いや、これ自体は「うんうん、そうですよね」と思って読んだし、俺はプロの法解釈にケチつけるほど無謀ではない。のではあるが、ここんとこにわかに興味を持っている外国人関連へのヘイト行動とかの正当化ロジックとよく似てるわあと思った(全然違うよ! って意見もあるだろうけど、一度見えてしまうと、なかなか振り払えないんだ。)ら、これに納得して良いんだろうかという気になってきたんだわ。
 たとえば、今回のこれはエロゲなわけだが、③とか④とかのエロゲーのところを嫌韓流4にして、女性を在日コリアンにしても、構文は同じだよね。⑥だったら「朝鮮総連批判」とか主語にすればかなり同じ文になると思う。


 あ、ここでもう一回確認。俺が疑問に思っているのは「法規制反対」のところじゃなくて、「人権団体がケチをつけてきた」ってところね。山口弁護士の記事だと「発売禁止を求めることは間違っています」ってところ限定。
発売禁止を求めるところから間違っているっていうなら、どんな抗議ならありなんだろうか。もし声を上げてもなんの影響も与え得ないのだとしたら、それは用意されたガス抜きに過ぎなくね? 抗議するのは、こういうゲームの存在が許せないと思う人々の怒りの表現だろうし、あらゆる表現は世界に影響を与える可能性を持っているから表現なんだろうと個人的には思う(だからその自由は守られなくちゃいけないし、法規制はされちゃ困る)。であればこそ、文句の声を上げたことを罵ってはいけないんじゃないかと思うし、ゲームを表現だと認めるなら、それが持つ影響力も認めなくちゃいけないんじゃなかろうか(つまり団体の主張にもある程度の根拠があるんじゃないかということだ。どの程度であるかは検討されなくちゃいけないし。ひょっとしてひょっとするとゼロであるかもしれないが。)。


 でもって、「流通を抑えるのは許せん」とか、「ゲーム会社が人権団体に屈した。」って主旨のコメントも見掛けた。そう思う人も多いんだろうと思う。前者については表現や言論ってのは、希望の実現を目指すものだと思うので、個人的にはありなんじゃね、という気がする。ってのは、ルールを作っているのは多くの場合、文句を付けられる方であり、そこにはルール通りにやればルールを作った方が勝つ仕様が存在していると思われるからだ。
 後者については、この販売元の会社の場合、そもそもこれが表現の自由の行使だという自覚があったのかという気がする。ってのは、販売元のコメントは以下の通りだからだ。
ILLUSIONからのお知らせです

ILLUSIONからのお知らせです━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

弊社製品「レイプレイ」に関しまして、
国内にて一般社団法人コンピュータソフトウェア倫理機構の審査を受理しておりますが
現在弊社が置かれている状況を受け、業界全体への影響を考慮した上で
当該製品の出荷及び告知を自粛いたします。


関係者の皆様にはご迷惑をおかけいたしますが
何卒ご理解いただけますようよろしくお願い申し上げます。


イリュージョン━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 えーと、このゲームの販売中止にゲームの内容とは関係なく抗議の声が上がっていて、エロゲーと犯罪助長を関連づけるデータはないって調査が何度もされていて、「エロゲーがほぼ自由に販売されている日本の性犯罪率はダントツに低い」ってデータもあるのに、文句つけられた当の本人は一切反論せず、販売自粛してお終い。


 これは「屈した」と言うのだろうか。


 俺にはむしろ販売会社はそもそも自社製品を表現だなんて思っていなかった*1ということを露呈している対応に見える。これが素人のブログが炎上しましたみたいな場合なら、覚悟のなんのという話は絶対にしないけど、この人たちはプロである。相手の意見を納得したから自粛するとか、「抗議は受けたがこのような反論がある」と自己主張(それこそ「表現の自由は、多数決でも侵害しえない権利を認めるものである以上、多数から忌避されるような表現活動に認めないと意味がない」とか妥協案ぽく「一面差別的かもしれないが、これが自由に流通している日本の性犯罪発生率が他国と較べて低いのは、エロゲーがあるからだ」とか「そもそも外国で売られることを想定していないから海外からは引き上げるが国内での販売をとやかく言われる筋合いはない」とか)するか、どちらかの対応をするのが筋なのではないか、という気がする。いやコストの問題とかで諦めたのかもしれないけどね。
 ただ、この対応が業界に与える影響をどう考慮したのかという点は気になるところ(とこういう対応を見るといつも思うんだよね。コスト無視して公開討論まで出て行った筒井康隆手塚治虫は偉かったわ)。


 もちろん読売の記事は暗に規制しようよ〜と言っているようで気分が悪い。エロじゃなきゃできない表現ってのも(詳しくないからわからないけど)たぶんあるんだろうし、下手な規制はどこまで波及するかわからないから、法規制には絶対的に反対する。ついでに言うとこのゲームを楽しむ権利だって認められるだろうし、この手のゲームを作ることだって制限はされるべきではないだろう。
 しかしその一方で「不快だ」という声を上げることを否定してもいけないんじゃないかとも思う。ってのは、その判断がすでに「我慢は女(の一部)にさせておけ」って思考を表現してしまっているように見えるからだ。


 うーん、支持したい考え(表現の自由はなるべく守られた方が良い)という主張のほんのちょっぴりの違和感を説明するのに、どんだけかかってるんだろう。それから、俺がいままで書いた他の記事との兼ね合いで、人によってはダブスタだと思われるかもしれない(ヘイトを放っておくなって主張をしているので。この人権団体の言い分も見る人によってはエロゲに係わる人々へのヘイトだってことになる場合もあるだろうから。)んだけど、頭の回転が間に合ってなくて、そこら辺の整理は、まだできていないので、そういう批判が出た場合には、その通りですというしかない。正直なところ、見方が決定できていないので。


 まだまだ全然まとまっていないし、説得力もないと思うんだけど、とりあえずすっきりするためにポストしてみる。他の人の書いた記事読んだりして考えが整理されたら続きを書くかもしれない。(またこんな終わり方か)

関連エントリ:例のゲームの件について2・あんまりにも長いので自分でも驚いた。

*1:ただしここでいう表現は俺の個人的感覚的定義でしかないので、似たような対応するものが表現の名に値しないとか、そんなことを言うつもりはない。なお、「表現」の俺定義をして、それ以外は表現じゃないというつもりもない。