スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ6 NANA I Love you, SAYONARA


チェッカーズの音楽とその時代
の読書メモ第6回。
前回。
gkmond.hatenadiary.jp
第二期に入った。『NANA』に対するスージーさんの印象ってかなり悪いのね。今までの照れ隠しかおいおいみたいなツッコミを入れる余地が残ってない感じ。アイドル時代の第一期がよっぽど好きだったんだろうなあとか思った。引用してる歌詞も助詞間違えてるし……。

チェック柄のコスチュームを脱ぎ捨てた7人は、夢の世界から西麻布という現実に降り立ち、芸能人と飲んだくれ、戯れる男たちとなったのである。

 あの歌詞でそこまで想像できるのかとびっくりした。リアルタイムだとこんなふうに見えるものだったんだろうか。いや実を言うと「メンバーの喜びが、ビンビンと伝わってくる曲である」ってところから、印象が違うんだよね、音源初めて聴いたとき、喜びより気迫を感じた身としては。高校生くらいのときは「脱アイドルへの気迫」みたいに解釈してたけども、今考えれば「コケたら終わり」な背水の陣で出てきた音だったように思う。でもってサビの「未来に感じ濡れてくれ」とか「過去を引き裂け」とかも、『True Love』がファンへのメッセージなら、やっぱりファンへのメッセージだったんじゃないのかね。「思い出へ流れてゆく涙はおれのこの手じゃふけない」けども、どうか新しい自分たちについてきてほしいっていう。
 あら、今反射的に思いついただけだったのに、これだとNANA=スージーさんみたいに路線変更を残念に思っていたファンじゃんね。やっぱりもうちょっと『NANA』には優しい眼差しを注いであげた方がよかったんじゃなかろうか。そんなこと言うぼくはもちろん『NANA』好きです。いちばんよかったのはチェッカーズじゃなくなるけど2017-2018のカウントダウンライブのときの演奏。前奏のジャーン、ジャッジャーン、ジャッジャーン、チャーン、で会場揃って「ハッ!」のあと、一瞬謎の無音。その一瞬で戸惑いがさざなみのように広がったのを待っての演奏再開っていう流れがあって楽しかった。

追記:ここも映像紹介すればいいじゃんね、と気がついたので2017-2018カウントダウンの公式動画貼る(公式があるってありがたい)。
www.youtube.com

これの29:50くらいから。一瞬、シンとなってるの、わかります? 演奏再開のところで、音拾われてないと思うんだけど、客席から軽く笑いが聞こえて(ひとりとかふたりとかじゃなくて)、なんつーか、ファンとフミヤの高度なコミュニケーション見せられた感じがとてもよかった。こんな短い間を空けるだけでちょっとひねったぞ(笑)みたいなのを双方感じてるのにただただ感心したのだった。そして、ゲットダウン(っていうとどっかで耳にしたのでこの呼び名で。そうじゃないとなんて言ったらいいのかわからないので)したまま床が沈んで消えるって曲の締め方も非常によかったというか、予想してなかったので「おおおー」ってなった。

追記終わり。

 で、『NANA』を下げた反動か次の『I Love you,SAYONARA』は珍しくストレートに褒められている。『ジュリア』『POPSTAR』に続いて3曲目かな。世界観がいいのだそうな。

 チェッカーズとそのスタッフのクレバーさはこのあたりにある。
 つまり、《NANA》と《I Love you,SAYONARA》の、このような世界観の違いを、(おそらく)意識的・戦略的に打ち出していることのバランスを取るクレバーさ。マンネリズムを回避する、このようなクレバーさがあって初めて、「解散まで本格的な低迷期を迎えなかった希有なバンド」になれたのだと思う。
 作曲は、当時のチェッカーズにおける音楽的キーパーソンだったユウジ。やたらとキャッチーなサビも含め、コンテンポラリーでかつ「売れる音」になっている。

 どうせなら、イントロのサックスの気持ちよさにも言及してほしかった。最初のあれと、「♪きーらいと言ーうしーかー」のまえのジャジャジャジャージャジャジャがいいと思うんだけど。まあ、「含め」だから全部入ってるってことでしょうけど。英語版もあるんだよね。歌詞覚えてないけど。そっちもなんかいい具合だった。好きな演奏はフミヤがソロになったあとのNHKホールかどっかのライブ。ユウジがゲストで来てたやつ。なんかとても楽しそうに歌ってた。WHITE PARTYのアンコールの『ジュリアに傷心』もそうだけど、ちょっと「懐かしの」って文脈入ると楽しそうに歌うんだよねえ、フミヤって。

追記:ところでスージーさんは『I Love you, SAYONARA』を褒めるにあたって、

登場する女性も、「バージンのように怯え」る「NANA」ちゃんに対して、こちらは、自分の意志で男性と別れ、新宿の「ネオンへ消え」ていく凜とした女性という感じがして、好感が持てる。

と仰有っているんだけども、歌詞から考えて別れを切り出したのは男じゃないかという気がするんだよね。だから「嫌いと言うしかなかったよ Baby 馬鹿だね男って」なんじゃないのかなあ。
 で、これはさっき思いついたことなんだけども、『I Love you, SAYONARA』には傷だらけの結婚指輪が出てくる。ということはたぶん、歌詞世界の男女のサヨナラの意味は離婚である。そして、『NANA』には「薬指に今も残る跡」ってのが出てくる。これも恐らく指輪のあとである。ということは、この二曲、主人公の男を別人と考えれば、ヒロインは同一人物であってもいいはずだ。生活苦か何かから男から「I love you, SAYONARA」と言われた女性がほかの男に言い寄られるけど、まだ元の旦那を忘れきれず云々っていう態度に言い寄った男が「知らない頃のおまえにジェラシー」みたいなストーリー。
 リリースの順番と時間軸が逆だというのはわかっているんだけど、『Jim & Janeの伝説』が出たあとで『Prologue』が語られたみたいに、『NANA』の詩を書いたあとフミヤの頭に「NANAと前男にどんな物語があったんだろう」ってな疑問から前日譚が生まれたみたいなことはなかったのかなあと(おれが知らないだけですでに語られている話、もしくは語られていないのだから、そんなつながりはないのどっちかが正解なのは重々承知ですが、思いついたらなんか妙に説得力があったので書き留めておきます)
あと、もし、上記のNANAがファンへのメッセージって解釈がありなら、売上減を見たあとで作られたI Love you,SAYONARAというタイトルには去りゆくファンへの惜別のメッセージが込められていたという解釈も成り立ちそうな気がふとした。すべて妄想でしょうけど。

追記:読書メモ完結。全十三回。以下目次

スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ1 タイトルのメッセージを妄想してみた - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ2 『ギザギザ』から『星屑』まで - U´Å`U
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