フジイロックが素晴らしすぎて動揺している

 タイトルがすべてみたいな感じ。なんだけども、藤井フミヤのニューアルバム『フジイロック』が出た。

 前作『大人ロック』のときはまだ、聴くのを再開していなかったからオリジナルアルバムのリリースを楽しみに待ったのって、『PURE RED』以来。いや、「楽しみに」って言うんだったら、『R&R』以来かもしれない。ということは24年ぶり。
 今回のアルバム、おれ的に何が素敵かってまずジャケットだよね。まさかの手塚キャラ、しかもロック。手塚キャラのなかでも好きな方から数えて何番目ってやつで、小学校の終わりから中学校のはじめの手塚好きピークの頃はファンクラブに入ってて若気の至りというかなんというか、ロックのイラスト描いて投稿したらファンクラブマガジンに掲載されたなんて甘酸っぱすぎて普段はめったに思い出せない思い出もあんのよ。そんなわけでもうフミヤのアルバムがロックっての、それだけで嬉しさ二乗でさあ。しかも先行公開された動画「WE ARE ミーハー」がまた楽しい作品で。ちょっと貼るから見てよ。
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 楽しくない? この懐かしポップカルチャーっぽいあれこれを気軽に遊んでみましたって感じ。しかもいつでもどこでも判で押したみたいに「歌はラブソングじゃないと聴いてもらえない」って言ってるフミヤさん(それを聞くたびにあれこれ例外が浮かぶわけだけど一般論としては間違ってない)がアルバムプロモーションのために選んだこの曲、ラブソングじゃなかったってところもまたおれ的にはツボだった。タイトルもいいよね、ミーハーって。フミヤさんのホームですよね、そこって感じもするし。一般語としてはすっかり「にわか」とかに変化しちゃってる気もするけど、「にわか」には入りようのない軽やかさとか愛おしさがWE AREとくっつけることでフォーカスされてるし。そんなところからごちゃごちゃややこしいことも考えたけど、ここでは割愛。
 で、わくわくわくわくと7月10日のリリース日を待っていたら、その数日まえに配信が始まったんですよ。速攻DLしたよね。CD置き場所取るしって理由で(今になってCDで買ってもよかったというか買っといたほうがよかったんじゃないかという気もしているが)。
 とりあえず曲目リストを眺めるとこんなだった。

  • BET
  • PINK
  • WE ARE ミーハー
  • Tokyo City Night
  • 言葉しかないLove Song
  • Who's fine?
  • そのドアはもう開かない
  • Tonight
  • 千夜一夜幻夜
  • ラクルスマイル
  • フラワー
  • ラブレター

 何はなくとも再生してみる。ピンと来る曲が全然なくても十回聴くとすべていい曲に思えてくるのが藤井フミヤの曲、というのが、自分の勝手にこしらえているイメージなので、とにかく十回聴かなくてはという気分。だったのだが、BETの前奏が始まった瞬間、あれ? かっこよくない? 嘘、しょっぱなからキャッチーじゃない? という意外性に持っていかれた。フミヤのアルバムで一曲目の一度目からこんなに「あ、これはいい」と思ったことがあっただろうか、たぶんねえぞ、と興奮し、その勢いのままに最後まで。終わったらまた再生みたいなことを繰り返して今日に至る。一曲だけ歌詞がピンと来ない(メロディーは素敵)のあるけど、最高じゃないかという結論になる。遅ればせで集め出したアルバムがまだ『Coverfield』(去年出た100曲ベストに1曲も入らなかったアルバムらしい)までしか揃ってないんだけども、そのなかではキラッキラ補正の入っている不動のマイベストアルバム『ANGEL』の次くらいに素敵なファーストインプレッションであった。
 このアルバムと併せて聴くとなんとなく『大人ロック』は大人(一般語で言えばおっさんだと思う)になったことを遊んでいるような曲があって、こっちは大人なの飽きたからちょっと若返ってみよっかなみたいな曲があるので、ロックでつないでるのも意味がある感じ。
 何より嬉しいのは、何曲かはなんかチェッカーズを聴いてたときの感触があるところ。これをなんと表現したものかと何日か折々考えていたのだけど、いちばんしっくり来たのは「適度な背伸び感」。いや、大ベテラン歌手が今更背伸びなんかしねえだろというのはそりゃそうなんだけど、BETとTokyo City Nightと千夜一夜幻夜はなんでかそんな感じを受けたんだよ、で、「そうそうこういうのを待っていた」と。もちろん、昔と同じ感覚じゃなくて、大マジでやってたことを遊びでやりなおした感じもあってそれもまた心地いいんだけどね。Tokyo City Nightがいちばん露骨にそんな感じを受けた。ちょっと気取った前奏からの歌い出しが「Tokyo City Night 愛 孤独 交差する ロマンス」だよ? いつの東京だって話なんだけど、こういう歌詞世界にフミヤの声は非常に映えるんだよねえ。この曲は20代のときに大マジで歌っててもおかしくなかったと思う。っていうか、ずっと東京に住んでて、こんなあこがれの街っぽく歌う歌詞を今書けるのが凄い。こんなん歌われちゃったらスージーさん、どう評価するんだろ。
千夜一夜幻夜」はディスコと神話のイメージを重ねた歌(だと思う)女性ボーカルとの掛け合いとか最高。「マハラジャな夜にあなたを意のままにしたい この手で マハラジャのようにわがままに連れ去って」「呪文を唱えよう さあ開けゴマ」というサビが凄く気に入ってる。この「さあ開けゴマ」ってわかりやすさがフミヤのサービス精神だよなあと。何回もリピートしちゃう。で次の「ミラクルスマイル」との落差が割と激しいんだけど、もう10回くらい聴いてしまっているので、もはや気にならず、「ミラクルスマイル」もいい曲っていうか、チェッカーズではなかなかこういう曲は作れないよねみたいな、なんだかよくわからないありがたみを感じだしたりしてる。
 あとね、聴いていなかった20年(長え。ほんとによくぞ消えずに活動し続けてくれていました、ありがたい)のあいだに、歌い方がやたら丁寧になっていて、うまいはうまいし、そりゃ素晴らしい声なんだけど、若い頃の才能の濫費みたいな(今と比べりゃ無造作な)歌い方じゃないところに一抹の寂しさを感じたりしてたもんだから、丁寧さがそれほど目立たない(丁寧に歌ってるんですよ、当然)何曲かは、いなくなったと思ってたあのフミヤに近い人がここにいるよって感激もあったり。なんつーの、あのフミヤもこのフミヤも聴ける感激? あ、それだ。だらだら書いてきてようやく、何が言いたいのかわかってきたぞ。『フジイロック』には藤井フミヤのキャリア35年がまんべんなくぶち込まれているって思ったんだ、たぶん。そんなわけでこれ読んだ人でまだ聴いてない人(いるんだろうか)、とりあえず、とりあえず聴いてみてくれ。聴いてみたけど、おまえ全然言ってること当たってねえぞって場合はご容赦をあくまで個人の感想なんで。でもってこれは今後もたくさん間違った仮説を立てちゃいそうなアルバムです。主観的にはムッチャお勧め。