ジェニファー・リー・キャレル布施由紀子訳『シェイクスピア・シークレット』

内容（「BOOK」データベースより）
ロンドン、グローブ座。『ハムレット』の稽古中だった演技監督ケイトの元に、三年前に決別した恩師であるシェイクスピア学者・ロズが突然訪れる。とても重要なものを見つけたから、ケイトの助けがどうしても必要だという。改めて会う約束をし、小さな箱を預かったケイト。しかし、ロズは同日夜、グローブ座で死体となって発見された。首には針のあと。まるで首から毒薬を注入されたハムレットの父王のように…。箱の中にはヴィクトリア朝のブローチと、一六二三年に刊行されたシェイクスピア戯曲集の初版本についてのメモが入っていた。ファースト・フォリオ、それはオークションに出せば何億もの値がつく、世界で最も貴重な書籍だ。ロズが追っていたのは、これなのか?―400年の時を経てヴェールを脱ぐ、世界文学史上、最も偉大な作家の真実。謎とトリビア満載、驚愕のノンストップ歴史ミステリ。

内容（「BOOK」データベースより）
ハーヴァード大のロズの研究室へ向かったケイトは、メモに遺されたヒントを次々たぐり寄せ、十九世紀に書かれた一枚の手紙を発見する。そこには、採鉱師がある原稿を見つけたと記されていた。タイトルは『カーディニオー』。それは、シェイクスピアの幻の戯曲…『ドン・キホーテ』を元に執筆されたが、二度上演されただけで原稿は残っておらず、歴史上から消えてしまった作品だった。ファースト・フォリオが何億なら、『カーディニオー』が見つかったとなれば、その価値は計り知れない…さらに手掛かりを追ううちに、驚愕の真実が浮かび上がる。シェイクスピアとは、皆に知られている人間ではなく、全く別の人物だというのだ。果たして幻の戯曲は発見されるのか?シェイクスピア作品の本当の作者の正体とは?―驚きと興奮、刺激に満ちあふれた、エンタテインメント巨編。

　読了。上巻の粗筋紹介はちょっと間違い。どこがというと、ミステリのところ。本作はエンタテインメント巨編かもしれないが、ミステリではない、あるいはミステリとしては非常に弱い。トリビアは昨日の記事で紹介したものなどが面白かった。下巻の帯には、ニューヨーク・タイムズのレビューが引用されていて、「インディ・ジョーンズ」ばりのアクション・アドベンチャーとある。たしかに。
　著者はハーヴァード大学で英文学の博士号を取得、オックスフォード、スタンフォードの学位（英文学）も持つ。アカデミックよりの人(後書きに紹介されていた論文の一部はネット上でも読めるようだ。http://www.accessmylibrary.com/coms2/summary_0286-5608207_ITM)。そこが創作部分でネックになったかもしれない。というのは、シェイクスピアの学説だけじゃ持たせられないから連続殺人でも起こそうか、みたいなカジュアルな殺人事件がぽんぽん起こって興ざめだったんだけれども、それもたぶん、「素人さんにシェイクスピアなんて言っても、興味を持ってもらえないだろうから、わかりやすいフックを用意しなくちゃ」って意識のせいじゃないかなあという気がしたからだ。

　実際、本書を読み終えてもっとも印象に残るのは、シェイクスピア別人説に取り憑かれた学者ディーリア・ベーコンだったりするので、それなら昨日紹介した「シェイクスピアはどこにいる」を読んでいれば良いんじゃないかという気がしなくもない。

　だから物語自体が面白かったかと言われると、結構微妙なんだけど、あとがきが素敵すぎ。どこまでが資料に書いてあることで、どこからが創作か、ことこまかな腑分けを提供している。こういう誠実さは好きかも知れない。胡散臭いもんの魅力を認めて、きっちり遊びきったあと、「でもこことかこことか真に受けないでね」と言って読者を本の世界から送り出す。なかなかいいんではねーの、と思った。（あ、でもポー・シャドウのマシュー・パールのあとがきも似たようなものだったような。身内から怒られるのを避けるためか？　まあだとしても、俺は好きですね、この姿勢）。

　で、作品内容的には、ベッド・ディテクティブでやったら個人的にはもっと楽しめたような気がした。クライマックスに近付けば近付くほどだるくなってしまったので、ちょっと相性が合わなかったかもという印象。ビジュアル的なスリルで押そうとする節があるので、映画になったら面白いかもしれない。

シェイクスピア・シークレット上
布施由紀子

角川書店(角川グループパブリッシング) 2009-05-29
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