草乃しずか『草乃しずかの世界 ~ひと針に祈りをこめて40年~』

草乃しずかの世界 ~ひと針に祈りをこめて40年~
草乃 しずか

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 たまたま水の美術館(ウェブサイト)というところの『特別企画展「ひと針に祈りをこめて40年 草乃しずか 日本刺繍の世界展 -102歳になる母の作品とともに-」』という展示の告知を見て、あまりの美しさにアマゾンで検索したら同じ作品らしきものが表紙になってる本があったので読んでみた。これまで刺繍に関する知識は「針に糸を通して、布か何かにチクチクする」だけであった自分としては、ただただ「糸か、これマジで糸で作ったのか」と気が遠くなりながら(見ただけで気が遠くなりそうなんだ、これが)ページを捲った。全体図として撮られた写真は完全に絵。アップの写真を見るとたしかに刺繍。記憶の奥のほうから五木寛之の『戒厳令の夜』に出てきた美術商が現れて、惚けたような声を出すのが聞こえた。いや、なんだ。知識がなさ過ぎるし、比較対象もわからないので、なんと説明したらいいのかさっぱりなのだけども、とにかくすげええええって思いながら眺めた。
 で、ジャンルが日本刺繍(刺繍にも色々あるらしい)ってこともあり、前半はびびりながらも、まあイメージは把握できるよって感じだったの。源氏物語を着物の刺繍で表現みたいな。気が遠くなりそうな手間を使って、なんでここまでって種類の色が咲き乱れる和風美とでも言えばいいのだろうか。
 ところが、後半に入って生命がなんちゃらって(ちゃんと引用しない理由:今母親に本を貸していて手元にないから)モチーフの説明が入ったそのあとが、さらに凄かった。正直、モチーフ説明で生命がなんちゃら書いてあったときは、「凡庸な売り文句」くらいの気分で読み流したんだけどさ、作品見たら「うわあ、生命がなんちゃらだ〜」って、見たおれが思ったんだわ。説明はきっちりばっちり、作品を言い表していた。ただし、作品自体のほうが百倍雄弁で、千倍説得力があった。何っぽいって言えばいいんだろうな、大昔の人が描いた世界の仕組みみたいな絵か何かで、いやこいつはたしかに祈りというか、宗教心みたいなものが下支えしなくちゃ作れないだろって感じがした。信仰があるとかないとかそういう話でもなくて、伝わってくるエネルギーみたいなもんがあんだよ。正直、こんなことまで刺繍でできるとは考えたことがなかったし、本物ってのは力があるんだなあと、つくづく感心した。
 当初は立ち読みで済ませるつもりが、背中のほうから、フィットネス教本の90DVDが実際何分エクササイズに充てているのか、講師のおしゃべりが入ってるんなら買いたくないんだと仰有るおばさまが、店員さんの「全部再生してみないとわからないので90分後のお返事でもよろしいでしょうか?」という返答に「五倍速で再生したらそんなにかからないじゃないの」と答えているのが聞こえてきて、とても立ち読みを満喫できそうにないという理由で買ったんだけど、今となってはあのおばさまに感謝である。おかげでいいもん買ったよ、ぼく。まだちょっと興奮気味。
 ところで、写真を見る限り、刺繍の地になってる着物も遠くから見るのと近くで見るのとだいぶ印象が違ってて、こんなに違うんならぜひ本物が見たいって思うのね。展覧会に人を呼ぶプロモーション本としてもよくできてるなあと思ったのだった。

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