荒俣宏『コンパクト版 本朝幻想文学縁起』 

本朝幻想文学縁起 (集英社文庫)
荒俣 宏

4087482634
集英社 1994-12
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by G-Toolsisbn:4087482634
 親本は、雑誌「奇想天外」1981年1月号〜10月号、雑誌「BOOKMAN」1982年創刊号〜1983年第5号、『空海グラフィティ』の初出原稿を大幅に加筆、さらに書き下ろしの章を設けて1冊としたもので、1985年に刊行された*1。文庫版は1994年。

 本書は怪異と奇想とにかかわる日本的な感性のありかたをたずね、同時に、失われた霊界好感能力を回復するための、じつにささやかな試みに過ぎない――

 という前書きで始まる荒俣流「日本オカルト文学」ガイド。万巻の書を読破してきた著者ゆえに文章はどっちらけ(そんなところにこだわりがあったら、この読破量は不可能)ではあるものの、引っ張ってくるデータの量は尋常ではなく、知らなかったことを知る喜びを満たすには良い本だと思う。
 最近の興味とのかねあいで行くと、南総里見八犬伝の絵解きを試みる部分と、吉田神道の解説、浄瑠璃酒呑童子の紹介などが面白かった。

 他に宣教師が布教のために色々な者を日本に持ち込んでいて、天正9(1581)年には黒人奴隷を連れてきたとか、江戸期の医師安藤昌益を紹介する件に書かれた陰陽五行説による生命観(すべからく天地の間に生まるる者、みな陰陽五行をつくるなり。その気に不同あるゆえに、草木あり、鳥獣あり、人倫あり。草木はさかさまに生まれて、根をかしらとし、枝を末とする。鳥獣は横さまに生まれて横に走りあるくなり)などは、知らなかったので面白かった。まさか草木の喋らない理由が気が逆立ちしているからだとは……。ちなみにこの発想はダンテの「神曲」にも現れるそうで、著者はそれを対応だといっているが、自分には伝播したのではないかと感じられた。

 本書の最後をしめるのは、パーシヴァル・ロウエルのエピソードで、彼の著書が呼び水となってラフカディオ・ハーンは日本に来たらしい。ロウエルは西洋に日本を紹介した先駆者であるにもかかわらず、日本での知名度ははなはだ低い(ぼくも知らなかった)のだが、その原因は、その紹介の仕方があまり日本人にとって気持ちの良いものではなかったからのようだ(大森貝塚の発見で有名なモースも、この点似たような者で、日本人は食肉人種だと宣伝に努めていたが、大森貝塚を発見したという一点で残りの部分は黙殺され、日本史に名前をとどめているようだ)。

 ではどのように日本人を描写したのかというと、日本人の精神は想像力がなく、女々しい。というのが、彼の結論だった。著者はこれを「正解」と呼んでいるが、なるほど確かに正解だと思う部分もある。現状にブチブチと煮え切らない不平をこぼしながら、自分から何かを変えようとしないというイメージを女性的と捉えるなら、日本人の精神性は女性以外の何者でもないからだ。

 って、本の感想とはズレた。まあいいか。とりあえず色々書いてありますが、自分のように頭の悪い人間が読むと、片っ端から忘れてしまい、ほとんど残らないかもしれません。へえと思いたい人向き。