ヒロシ『ヒロシです。』

ヒロシです。
ヒロシ

4594047998
扶桑社 2004-09-22
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by G-ToolsISBN:4594047998

 友人との待ち合わせに、ちょっと早く着きすぎたので、本屋に入り、時間つぶしの本を探していたところ「ヒロシです。」(ヒロシ案2004年発行)http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4594047998/taidanakurashi-22/ref%3Dnosim/250-3952776-8049816を発見。なけなしの金で購入。ヒロシ(ホームページhttp://homepage3.nifty.com/HIROSHI~/top.html)は大好きなお笑いの人。人生の一断面を切り取る詩人でもある。と、無駄に真面目くさって言い出す必要はないだろうけれども、ただそう感じさせるネタが多い。これは本を読んで初めて思った。笑いにも色々な種類があるはずだけれど、最近テレビでお笑いを見ていると、「ぼくはこんなに変なの! 面白いでしょ!」と言いたいだけじゃねーか、と感じることが多く、「本人が思ってるほど面白かねーよ」と言いたくなる。
 一見するとヒロシも似たようなもので突き詰めればテーマは「ヒロシです。俺の人生こんなに惨めです」をネタごとにパラフレーズしているに過ぎないように感じられる。
 しかし例えば自虐ネタを使う人間の多くが、「他の人より惨めな、それゆえ特別なぼくを見て」という浅ましさから自虐を行うのと全く対照的に、ヒロシのネタは特別じゃない自分を切り取ってみせる。ヒロシのネタは非モテで社会不適応だと感じている人間なら、まず似たような体験をしていることであり、彼のネタを笑うとき、男は「うわ、こいつなんて惨めなんだ」と思うと同時に、自らの似たような体験が思い出され、「俺も似たようなもんだ、お互い笑うしかねーよな」という思いにも駆られる。そこでの笑いの機能は、嘲りでも妬みでもなく、早い話共感だ。
 ということで、非モテで取り柄がなくて貧乏で、などという自己イメージを持つ人間は是非ともこの本を読め。BGMと語りを失ったヒロシのネタは笑いの力こそ減ってはいるものの、非モテカリスマから世の中を惨めに生きている負け犬たちへの励ましの言葉として、よりストレートに響くようにできあがっている。
 これはただのネタリプレイ本ではない。お前等の代わりにヒロシが誰も聞いていないルサンチマンの声を上げた、魂の叫びなのである。それこそ石川啄木が叫んだような種類の。