矢野龍渓「経国美談」

 図書館で借りた日本現代文学全集3政治小説集。二週間もあれば読み終わるだろうとタカをくくっていたのだが、あれやこれや色々あって結局、3本収録の一本目、「経国美談」しか読み終わらなかった。しかも前編。おかしいと思ったんだよね、岩波文庫二冊組なのに83ページしかないなんて。まあ何となく分かったので良しとしよう。
 ということで本作品は小説神髄以前に書かれたもの。出版は明治16(1883)年、舞台はなんと古代ギリシア。テーベの民主制を守るため、奮闘する人々の活躍を描く。漢文読み下しの文体は耐えられるにしても、国名人名すべて漢字表記(ギリシア人なのに!)が辛かった。アテネが雅典で就職情報誌ですか? ってのはまだ良いとして、主人公格の名前は巴比陀(ペロピダス)だし、友人は威波能(イパミノンダス)だしで、どうやったらそう読めるのかと。安重という人物も出てきた。面倒くさかったから「やすしげ」と読んでおいた。
 明治時代の作品なので時代考証は期待できないと思う。紀元前の世界で紙が使われていたりする。が、あれこれ史料を引っ張ってきているらしいので、思っているほどひどくないのかもしれない。調べてないので分からないが。
 キャラクターの中では、単純馬鹿で周りからちょっと軽んじられている瑪留 (メルロー)が良かった。猪突猛進で融通が利かず、憎めない。それ以外の人物はあまり個性を感じられなかった。メルローを主役にして芥川あたりが作品を残してくれたら傑作になった気がする。
 まあでも、別に今読む必要はないわな。スパルタはアメリカチックだけど、そんな寓意を読むにしては、疲労度が高すぎる。ペダンティストになりたい人向け。
 なおこの記事http://www.kawaguchi-g.ac.jp/sokki.htmlによれば、この本は、口述筆記(速記)で書かれたらしい。きっと漢文の部分に書いてあったんだろう。読めないって。←前編しか読んでいない事実をもう忘れてた。巻末に記されているらしい。