ヴァン・ダイン『ベンスン殺人事件』

ベンスン殺人事件 (創元推理文庫 103-1)
ヴァン・ダイン 井上 勇

4488103014
東京創元社 1959-05
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 有名作品。気まぐれで読んでみた。事件の推移もそこそこ面白いのだが、それ以上に興味深かったのが、語り手ヴァン・ダインの存在。この人、どこに言っても他のキャラから無視されている。ちゃんと確認していないが、探偵ファイロ・ヴァンス以外の人間と会話を交わしていない。なんでじゃ? 現実的な回答はマーカムがワトソン役を引き受けているので、語り手としての役割しかないということなんだろうが、そうじゃなかったらどうなんだろうと考えてみた。実はぬいぐるみだったとか。が、そうだと逆に他の人物が言及する気もするし、途中ほんのわずかだがヴァンスと別行動を取るので、却下。
 次に考えてみたのは作中人物ヴァン・ダインは黒人であるという可能性。だから白人のマーカムヴァン・ダインを同行させるのに、抵抗感を感じているし、カラードなんかと話せるかという意識があるから、一切会話をしない。問題は黒人弁護士なんかが作品発表時にいるのか? という点で、ググってみたところ、1928年にシカゴの予備選挙で殺されたオクタビウス・グラナディーという黒人弁護士がいたそうなので、どうにかなりそうな気もしたが、考えてみれば高級クラブにも足を踏み入れているのだから、ヴァン・ダインが黒人であると考えるのはちょっと苦しい。ではいったいなぜヴァン・ダインはずっと出ずっぱりなのに、ほとんど口を開かないのか。謎は解決されず、物語は終わってしまった。うーん、気になるぜ。