芦辺拓『殺しはエレキテル』

殺しはエレキテル 曇斎先生事件帳 (光文社文庫)
芦辺 拓

4334741800
光文社 2007-01-11
売り上げランキング : 47930

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
 江戸後期の大坂を舞台に、実在した蘭学者を探偵役にして謎解きやってみましょう、みたいな短編集。初出は「小説宝石」の2001年4月号から2003年2月号までの不定期連載。同年光文社から新書版が出ている。まだ完結しているわけでもなさそうで、作者もあとがきでパート2の予告をしているから、続きも出るんだろうきっと。
 第一話の、語り手平田箕四郎が無理なく事件へ参加していくくだりと第二話の探偵曇斎先生が無理なく事件解決に乗り出していくさばき方は上手だった。とりわけほとんど出番がない曇斎先生の奥さんお満の造形が良いと思う。
 編集者の差し金なのか、台詞回しに江戸時代にしては新しい単語が散見されて、イメージ的には学芸会のコスプレみたいな気もするが、はなからリアリティー志向ではないので、突っ込むのも野暮だろう。リアリティなんて話をしたら曇斎先生、第一話で捕まっている気もするし。
 むしろコケにされる悪役が若き日の大塩平八郎だったり、ゲストに伊能忠敬が出てきたりするところを楽しめば良いんじゃないかと。著者自身、蘭学ブーム期の江戸時代を大好物のNHK金曜時代劇のノリで料理したシリーズと言っているが、それが的確だろう。淡々と読んで「ほうほう」と楽しめる作品集だった。
 なお、曇斎先生こと橋本宗吉に関しては、本書を読むまで知らなかったのだが、マイペディアに次のような記述があった。

橋本宗吉 1763‐1836
はしもとそうきち

蘭学者,物理学者。阿波に生まれ,幼いころ父と大坂に出て傘(かさ)師となるが,間重富や小石元俊に才能を認められ28歳のとき江戸へ出て大槻玄沢蘭学を学んだ。1795年から大坂で医業に従事するかたわら蘭学を教授,また重富や元俊のため天文・地理・医学書などを翻訳。1811年蘭書に基づいて《阿蘭陀(オランダ)始制エレキテル究理原》を書き,エレキテル(静電起電機)の構造・製作法,良導体・不良導体の区別,百人嚇(おどし)(ライデン瓶(びん)),フランクリンの実験等を記述,本格的な静電気の研究を始めた。

マイペディア(C)株式会社日立システムアンドサービス

 師匠の大槻玄沢杉田玄白前野良沢の弟子。小説本文には「蘭学事始感想)」(1815成立、1869年出版)に、橋本宗吉の名前が記されているとあった。それなら見覚えがあっても良さそうなものなのに、すっかり忘却しているのがなんともはや。