C.S Lewis The Last Battle

 ナルニア国ものがたり最終巻。いままでと激しく違うのは、敵が強かったと言うところ。アスランの名を騙るサルシフト(日本語訳ではヨコシマというキャラクター名になっているらしい)が、ライオンの毛皮を使って、ナルニアの動物たちの上に君臨する。ナルニア国最後の王チリアンは、サルを成敗すべく出掛けていくが、カロールメンとアスランを後ろ盾にするシフトは圧倒的な勢力で、状況はいかんともしがたい。
 で、そこにいつもの連中が助けに入り、シフトのトリックをバラすのだが、これまでだったらそれでめでたしめでたしとなるところが、今回のシフトは、自分が作り出したアスランの偽物をチリアンに盗まれても平気、それどころか、「偽物がいるせいで、アスランは怒り、姿を隠してしまった」とか言い出す。一方で、アスランが偽物であるとチリアンはこびとに見せるのだけれども、期待した反応とは違い、「あのサルが俺たちをダマしていたように、おまえも俺たちを騙すつもりだろう。俺たちはもうアスランなんていらないし、王もいらない」と反旗を翻す。まとめてしまえば、シフトはアスランを騙ることで、致命的な不信をナルニアの住民たちにもたらしたのだ。ここら辺、民主主義の芽生えみたいな気もしたのだが、作者には、あるいはアスランにはお気に召さなかったようで、ナルニア国は最後を迎える。敵が弱くなくて楽しいなと思っていたが、そもそも逆転させるつもりがなかったようで、結局チリアンはカロールメンを駆逐できない。ただすべてが終わってしまうのである。

 圧巻なのはそこからで、ナルニアが消滅した後、そこから「真のナルニア」が出現する。ここまでのナルニアは真のナルニアの影に過ぎなかったと、唐突なイデア論が展開し、これまでのお話に出て来た連中がオールスターキャストで登場。個人的には、ほとんど何も喋らなかったものの、リーピチープと再会できたのが嬉しかった。

 ページ数はどんどん少なくなっていき、かつ着地点はハッキリせず、最後のページになってようやく明かされた話には、もしかしてそういうことか? と思いつつも、まさかあと打ち消したのが、そのまま出て来て、やや唖然。

 ついに彼らはこの世の誰も読んだことのない素晴らしい物語の第一章を始めようとしていた。それは永遠に続く。そしてそのどの章も、前の章より面白いのだ。

 以上、適当な俺訳によるラスト。
 カスピアン王子の角笛で、ナルニアには一定年齢を超えるとやって来ることができなくなる、というルールが提示されたので、最後はキャラクターたちがナルニア国を去り、現実世界へ帰還するという話になるだろうと思っていた。ナルニアは傷ついた子供たちのためにある世界なんだろうと。ペベンシー家のこどもたちは両親と離れて田舎に疎開していたときにナルニアに迷い込んだ。「朝びらき丸 東の海へ」のユースチスも「銀のいす」のジル・ポールも人間関係に問題があった。「魔術師のおい」のデイゴリーは、頭のおかしいおじと同居していた。そういうトラブルを抱えたこどもたちの見る夢がナルニア国なんだろうと思いながら、ここまで読んできていたので、ラストでまさか、彼らを現実に着地させるどころか、現実をけっ飛ばすような幕引きをするのが意外だった。

 もうひとつ、唖然としたところがある。本作の中でアスランは、異教の神タシと習合させられそうになったりする。そんでもってタシ信者が終わりの方でアスランと会話するのだが、「誰の名前であっても、良いことをすれば、それは俺に仕えたことになり、俺の名を唱えようと悪いことをするなら、俺に仕えたことにはならない」みたいなアスランの台詞があって、これが神らしからぬ、せせこましい良いとこどりに思えてならなかった。実際には「名目よりも行い自体の価値で判断します」と言っているんだろうけど、なんか違和感があったのは、アスランという神が、信者の悪行の責任を一切取ろうとしない神に見えたからだろう。

 いずれにせよ長かったが、おかげで多少英文の倒置に対応できるようになった。話す動物を殺すのは罪だが言葉の通じない奴は食用みたいな価値観に違和感を覚えまくったけれど、七冊読み終えてしまった以上、面白かったんだろうろとも思う。残念なのは、「誰も読んだことのない素晴らしい物語」が、作者が死んでいる以上、どうやっても読めないということだろうか。しばらくは余韻にふけりたい。

The Last Battle (Chronicles of Narnia)
Cliff Nielsen Pauline Baynes

0007115547
Collins 2001-05-08
売り上げランキング : 323682
おすすめ平均 star

Amazonで詳しく見る
by G-Tools