スティーヴンスン村上博基訳『宝島』

「新アラビア夜話(感想)」が面白かったので、宝島にも手を出した。昔「ジキル博士とハイド氏」も読んだはずなのでトータル三冊目。

港の宿屋「ベンボウ提督亭」を手助けしていたジム少年は、泊まり客の老水夫から宝の地図を手に入れる。大地主のトリローニ、医者のリヴジーたちとともに、宝の眠る島への航海へ出発するジム。だが、船のコックとして乗り込んだジョン・シルヴァーは、悪名高き海賊だった……。

 大筋は誰もがなんとなく聞いたことがある話だと思われる。実際読んでみると、主人公のジムがシルヴァーに導かれて自立するって物語なんだなという感じ。
 敵のボスシルヴァーがジムに惚れ込んでいるわけだから、命の危険はないも同然。そこに緊張感を生むための設定が、死んだ大海賊フリントの存在だったり、不平不満を抱えるシルヴァーの部下たちだったりする。シルヴァーは敵対勢力のボスで、この物語に波乱を起こすための役割を持つと同時に、ジムの守護神としても働いている。ジムから見れば、スリルある冒険の演出家兼安全管理者みたいなものだ。
 この役割は誰かに似てると思って考えたら、怪人二十面相の顔(当然素顔なんてわからないわけだが)が浮かんできた。シルヴァーも二十面相も魅力的な悪役ということになっている。魅力的な悪役とはもしかすると、物語のスリルを演出し、かつ読者が感情移入するキャラクターのことを認め(あるいは好意を示し)、最後敗れて見せることで満足感を与えつつ、しぶとく生き延びることによって、たたきのめした罪悪感を残さないという、なかなか難しい離れ業を、上手いことやり遂げるキャラのことなのかもしれない。
 それはそうとして、少年ものだと言われる本作でバンバン死人が出る(しかもジムは途中でそんな状況にもなれたとか言ってる)ことには驚いた。

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2013/07/15追記キンドル版が出ていたので、リンクを張っておく。確認時の価格は630円。

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