「砂漠を走る船の道（感想）」の著者が同作を含む連作短篇でとうとう本を出した。待っていたよひゅーひゅー、と本屋へ走り、あっちにいってもこっちにいっても見当たらず、思いあまって店員に聞いてみたところ、どこからともなく出してきてもらえた。ありがとう有隣堂藤沢店のお姉さん。
砂漠の中のキャラバンに同行していたら連続殺人が発生しましたという「砂漠を〜」。
風車の中に入った人はどこへ消えてしまったのでしょうという「白い巨人」
不朽体の聖列を検討する調査に同行する語り手を待っていた事件を扱う「凍えるルーシー」
アマゾン奥地の集落でエボラめいた病気が発生する。そんなときになんだって人を殺さなきゃいけないんだという「叫び」
ゴア・ドア――祈りの洞窟――と名づけられた洞窟はなぜ存在しているのか、タイトルの意味はなんだという「祈り」
以上の五本。うち「凍えるルーシー」は雑誌掲載時に読んでいた。自分にしては異常事態といってもいいくらい珍しいことだったが、目当ては梓崎優の第二作（つまり「ルーシー」）だった。読んだときは、「ええええ〜〜〜」となったのに、いまから振り返ると圧倒的に「砂漠を〜」の印象が強い。
今回初読の「白い巨人」「叫び」「祈り」の中だと、「白い巨人」が特に面白かった。どこがどうと言えないのは残念なので、みんな買って読むと良いと思う。ミステリつーとなんか陰惨で、関係者みんな死んで犯人も死んで探偵一人首を振りながら去っていくというイメージがあるが（ないか？） 梓崎優がすげえのは、そういう残念な感じがラストに残らないところだ。人間の闇とか言ってただ陰惨なもん丸投げされるわけでも、萌えにもたれるわけでもなく、帯に書かれているとおり、「物語を伝える」ことが主眼になったこの短編集が広く受け入れられることを願って止まない。
一箇所だけ引用を。俺が本書の中で一番好きだった箇所。
――あの迷惑なロック男は。
――彼なら、無事退院していったわよ。俺をまっているやつがいるって息巻いて。
――へえ。
――そいつは昔、旅人のように俺の前に現れて、音楽を教えてくれた。けれど今、そいつは音楽に裏切られて、ふらふらになりながら立っている。だから俺が行くしかないだろ。そいつはハーモニカしか持っていないからな。俺がギターを届けてやらないといけない――だって。
ネタバレを覚悟で言っておけば、このロック男は辻仁成ではない。
ちゃお。
追記：はてなで感想あげている人たちの文章でいくつか引っぱりたいのがあったんで、以下引用。
不可解な謎、異様なシチュエーション、驚きの真相。オーソドックスながらトリッキーさを持ち合わせるこの作風はすごいとしか言い様がねぇ。言い様がねぇぜ！身構えていてもあっさりと切り捨て御免されたのはほんと久しぶり。
旅人は、物語を伝えることができる - 積読も読書のうち？
帯の大型新人の文字は伊達じゃなく、現時点で完成されすぎていて、これから先このクオリティを維持しながらコンスタントに書き続けられるのか逆に気がかりになったりしますが、とにかく今後の活躍が楽しみ。
http://d.hatena.ne.jp/fermatgawarawaseru/20100314
ちょっと異質。
どのくらい異質かっていうと、歌謡曲界における久保田早紀くらい？！
http://d.hatena.ne.jp/rolling_avocado/20100309
既存の世界からいったいどんな魔術で、こんな異世界の論理を引き抜いてくるのか。神さえ宿るような驚異の連作。
2010-03-03
こういう本格ロジックを読みたかった、と思わせる。
2010-03-03 - 政宗九の視点
ミステリ・フロンティア発の新人では、現時点で間違いなく最も優れた書き手ではないだろうか。では何が優れているのか。それはロマンティシズムと論理型本格の融合にある。
ありのままの痛みを受け入れる意味を - 棒日記VII -Life without art is stupid-
叫びと祈り (ミステリ・フロンティア)
東京創元社 2010-02-24
売り上げランキング : 289
おすすめ平均 
Amazonで詳しく見る
asin:4488017592
by G-Tools
追記2014/01/01
文庫落ちしてた。
叫びと祈り (創元推理文庫)
梓崎 優 
東京創元社 2013-11-28
売り上げランキング : 89156
Amazonで詳しく見る by G-Tools
そしてキンドル版も。価格は確認時で580円。
叫びと祈り
梓崎 優 
東京創元社 2013-11-29
売り上げランキング : 3489
Amazonで詳しく見る by G-Tools
『リバーサイド・チルドレン』もどっかでキンドル版になるだろうとまだ買ってないんだけど、もしかして三年とか待たされるの？ マジで？
