トゥルー・クライム

 DVDで『トゥルー・クライム』を見た。クリント・イーストウッド主演作。原作はアンドリュー・クラヴァンの『真夜中の死線』(原題True Crime)。ある死刑囚の死刑執行当日、最後のインタビューへ向かう予定だった若手女性記者が事故で死に、主人公のエヴェレット(仕事はできるが人間性に問題あり)が代役を務めることになるが、資料の下調べをしているうちにこれは冤罪なんじゃないかという気がしてきて……というようなお話。いわゆるタイム・リミット・サスペンスなんだけど、途中から死刑執行の時間だけじゃなく、エヴェレットが馘になるタイム・リミットの意味が重なって、主人公が必死になる動機がわかりやすくなるのが工夫だったように思う。正義感だけじゃなく、死刑執行の時刻までにスクープ(つまり冤罪)の裏取りしないと失職の危機でもあるのだ。
 原作は大変分厚いが、非常に読みやすく、かつ凝った作りの傑作(だったのに、今見たらAmazon品切れ……泣ける)だった。映画はどうかなという興味で見た。主な変更点は――ちゃんと確認してないけど――原作で三十代だったエヴェレットがクリント・イーストウッド(公開当時69歳)になり、家の息子は娘(6歳かそこら)になり、死刑囚は白人から黒人になり、ポテトチップスコーナーの位置が変わった。それからある重要人物の知ってることとクライマックスの部分にもいくつか変更があった。クライマックスについてはメディアの変更に伴ってどうしてもそうするしかない点ではあったものの、原作のその部分がとても好きだった身には残念に思われた。逆に原作に忠実で見事な映像化だなあと思ったのは、ポンコツの愛車とプッシーマン(だったと思う、たしか)。なるほどこうにちがいないと思った。あと原作のラストのラストは少々わかりにくいフレーズ(これも確認もしないで書いてしまえば「彼は本当にサンタだったのかもしれない」みたいなフレーズだった)で終わるんだけど、映画を観るとその意味が腑に落ちた。
 あの長さの原作を2時間前後で映像化するのは結構無理あるんじゃないかという懸念を抱きつつ見はじめたものの、よくまとまったダイジェストになっていたのでなかなか楽しめた。それでも個人的には映画より原作本の方が上の出来だと思うけれども。それだけに原作本が品切れとは悲しすぎる。死刑囚のビーチャムが娘のゲイルに書いた手紙が出てくる。「大きくなったら読んでくれ」ってひとまず妻に渡しておくやつが。映画だと封筒しか見えない感じなんだけど、原作だと全文掲載になってて、すごく迫ってくるいい手紙なんだわ、これが。あれが読めなくなるのは非常にしょんぼりである。
 
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