ジョーカー・ゲーム

 戦前日本を舞台にスパイ養成学校「D機関」の面々がさまざまな任務を遂行していく連作短編集。表題作のほか、イギリス総領事がスパイかどうかを探る「幽霊」、ロンドンを舞台とする脱出劇「ロビンソン」、上海の抗日テロを背景に据えた「魔都」、東京でドイツ人二重スパイが殺された事件を追う「XX」の五編が収録されている。第30回吉川英治文学新人賞第62回日本推理作家協会賞をW受賞した作品でたぶん著者の代表作なんだけど……。面白いかつまらないかと言われれば面白いにちがいないんだけど……。と、歯切れが悪くなってしまうのは、たぶんこの作品は柳広司じゃなくても書けると思ってしまったからだ。表題作のあれとか、「XX」のしれっとしたあれの書き方とか、好きなところはいくつもあるんだけど、「饗宴ソクラテス最後の事件(感想)」や「トーキョー・プリズン(感想)を読んだときのくらくらする感じはないし、同じ短編集であっても「シートン(探偵)動物記(感想)」のような感銘も受けなかった。ほかの作家が書いたんだったら面白かったなでお終いだったと思うだけに、なんとも落としどころが見つからない、そんな読後感だ。定番シリーズが生まれるのはいいことだし、好きな作家が売れてくれるのはファンとしては嬉しいことだ。ただなんつーのか、これが売れるなら、ソクラテスシュリーマンダーウィンを描いた諸作がもっと売れてほしいとか思っちゃうんだよね。たぶんこれは、ジョーカー・ゲーム読んで面白かったのでキング&クイーンを読んだらそうでもなかったってコメントをどっかで読んだせいもあると思う。そんときは「キング&クイーン(amazon)」読んだばかりで、個人的には失敗作に思えたものだから、「おいおい、これで柳広司を見極めようとしないでくれよ、ほかの面白いんだよ」と思った。今回ジョーカー・ゲーム読んでも同じことを考えた。こんなもんじゃないんだ。(とはいえ、本作が普通に面白いことは請け負う。じゃなきゃ、わざわざ感想なんて書かない。当然続編もこれから読むつもり)
ジョーカー・ゲーム (角川文庫)
柳 広司

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角川書店(角川グループパブリッシング) 2011-06-23
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追記2016/04/21
 シリーズ第三弾の『パラダイス・ロスト』を読んだ。ナチス占領下のフランスや英国植民地、あるいは太平洋のど真ん中なんかを舞台に謎解きをする。感想は概ね第一作と同じ。
パラダイス・ロスト<ジョーカー・ゲーム> (角川文庫)
柳 広司

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 書くのを忘れていただけで、第二弾の『ダブル・ジョーカー』も読んだ。感想は概ね(以下略)
ダブル・ジョーカー<ジョーカー・ゲーム> (角川文庫)
柳 広司

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