大倉崇裕『福家警部補の報告』

福家警部補の報告
大倉 崇裕
B00GY1ZS9W
asin:B00GY1ZS9W

キンドル版。確認時の価格:1143円。

 福家警部補シリーズ第三弾。収録作品は
「禁断の筋書」
「少女の沈黙」
「女神の微笑」
 amazonのレビューにパワーダウンとか書いてあったけども、おれはそんなことないと思った。一本目の「禁断の筋書」(漫画家が編集者殺す)は地味な印象だったけれども、元暴力団員を犯人にした「少女の沈黙」はシリーズ最高作なんでね? という気がする。何がいいって、犯人が色んなもんしょいこんで、その中でどうにか最善の結果を目指そうとするその姿がしっかり描かれてる。おれなんてすっかり犯人に感情移入しちゃって、福家警部補が悪役にしか思えなかった。もうすっかり犯人応援してた。こういうことは珍しい。「女神の微笑」も同じ路線で短いながらも面白かったけども、犯人の魅力では一歩譲る感じ。
 後ろ二作は私的正義が警察によって断罪されるって構図に読めたわけだけども、そしておれの記憶力の問題で、じつは最初からそういう話ばかりだったなんて落ちがついていたら申し訳ないのだけれども、シリーズ途中から導入されたこの図式が、シリーズ読者にとって肩入れすべきは警察側(つまり福家警部補)であるがゆえに、大変複雑な思いを読者に抱かせる。なぜかってこの二作の犯人が行っていることは、執行権を持っていないという点を除けば、ある意味で正義と呼んで差し支えなく(なので読者としては肩入れしたくなる)、それでいて法律に則って考えれば、まごう事なき犯罪だから(いつもどおりに福家警部補に喝采を送りたくなる)だ。このバランスが絶妙で、本当にいい味を出している。それでもってこれがこのあともリピートされてしまったら、あっけなくパターン化してインパクトが失われる以上、この二作はシリーズがこの先どれだけ続こうと、この二作にしか持ち得ないインパクトを持ち得ているのである。だからこそこの三冊目は読んで損のない一冊だと思った。そして四冊目がとても楽しみ。

 あー、でも、あれ。細かい裏取りをするのに短い章を作って、それを犯人にぶつけるってステップは、今回くらい犯人によって読んじゃうと邪魔かもしれないって気がした。そこが疵と言えば疵。収集場面がなかったら、犯人と一緒になってもっとドキドキできたと思うんだよね。なきゃないで違う不満が浮かんだかもしれないんだけど、それでもなんとなく。

 それはさておき、コロンボコロンボと言われる福家警部補だけど、三冊目になってフロストみたいに見えてきた。寝ないにもほどがある(まあ、フロストもイギリス版コロンボ*1みたいなところがあるから、いいのか)。

↓紙のバージョンはこちら。
福家警部補の報告 (創元クライム・クラブ)
大倉 崇裕

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*1:イギリス版っていうか、反コロンボっぽいと思うんだよね。