正宗白鳥「何処へ」「入江のほとり」「本能寺の信長」

正宗白鳥を三本ばかり読む。「何処へ」(1908)「入江のほとり」(1915)「本能寺の信長」(1953)。それぞれ明治、大正、昭和の発表。活動歴が長いのね。「何処へ」はふて腐れた男の話で、周りの奴らを見下しているものの、その実主人公も大した人間ではない。「入江のほとり」は「何処へ」の主人公みたいなキャラクターが出てくるものの、作者の目はそっちではなく、東京から戻ってきた兄の方にあるようで、突き放しぶりが笑える。共通するのは、馬鹿を観察してやろうという眼差し。「何処へ」が明治41年発表で、日露戦争終結から三年後であることを考えると、主人公の態度はある種のカウンターだったのかとも思われるが、軽蔑するだけでは批判にもならないような気がする。しかも「入江のほとり」の頃は、すでに文学者として名を成していたんだよなとか、考えてしまうと、都会に出てきた田舎者が田舎を馬鹿にする(作中にそういう言及がある)ような嫌らしさがあって、「何処へ」に較べると、書きっぷりは一方的ではないものの、浅ましさを感じてしまう。どちらも当時の風俗を知るという点ではある程度の価値があるだろうけど、ちっとも面白くなかった。「信長」は何をしたかったのかすら判然としない。作者の名前が偉そうなので気になっていたが、名前に作品がついていってない感じ。