『ローカル線に紅い血が散る』

ローカル線に紅い血が散る (トクマノベルズ)
辻 真先

4191524356
徳間書店 1982-01
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おすすめ平均 star

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ISBN:419567980X by G-Tools

「ローカル線に紅い血が散る」を読んだ。トラベルライター瓜生慎シリーズ第三弾。これまでの二作は主婦と生活社かた出ていたのだが、本作は徳間書店が刊行。あらすじはこんな感じ。

 真由子はクラスメートの祖父江毬子から恋の助っ人を頼まれた。相手は高校の担任の先生。父親に反対され土地の有力議員の甥を押しつけられているのだ。真由子は毬子の故郷の北陸へ同行するが、そこでローカル線廃止騒動に巻き込まれてしまった。全国ローカル線を舞台にした長編鉄道推理。

 前作では自ら企画を持ち込んでまで慎を追いかけた真由子だったが、今回は旅行の予定をキャンセルされ、浮気してやる! とひとり旅に繰り出してしまう。このカップルも安定期に入りましたな。
 であらすじにも書かれているように友人毬子嬢のお宅へ出向くわけだが、毬子の兄、祖父江寿太郎は一名湊ようスケ。大劇魔団という劇団の主宰者である。この劇団、のちにリーダーが青江七郎に変わり、「天使の殺人」を上演することになる*1
 で、ここで首切り事件が起こるわけ。ところが首を切ったのは列車だということになって、そこに謎が生まれる。なぜかというと舞台になっているローカル線は首が切られたと推定される時間、すでに廃線。列車の通らない線路で礫死体はどうしてできたのか?
 この謎だけで十分魅力的だと思うのだが、本作はそれだけに尽きない。暴かれたトリックは歴史的な評価を受けている有名作品の応用まで取り込んだ手の込んだもので、これだけでも驚きだが、明かされる真相はトリックの上を行く。最後まで読めば必ずや読者は心を揺さぶられるだろう。ここまでのシリーズ三作の中では最高傑作と呼べるだけの熱がここにはある。
 ところで、作品中にこんなくだりがあった。

そういえばある有名議員が、弟の病状を案ずるあまり、自衛隊の飛行機で急行して批判された事件もあった。

 ここに書かれているのは石原慎太郎のことなんだけど、この頃のことだったんですかねえ。
 なお他の方の書評はこちらhttp://www1.kci.ne.jp/~nonoda/0403.html#ro-karusennniakaitigatiru

*1:「天使の殺人」冒頭の新聞の切り抜き記事に湊ようスケの名前が見える