『秀介ファイルNo.1』

秀介ファイル (No.1) (ソノラマ文庫 (262))
辻 真先

4257762624
朝日ソノラマ 1983-01
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ISBN:4257762624 by G-Toolsasin:4257762624

 これ最高。悪の軍団と戦う天才少年万歳。
 で終わらせると、あんまりなのでもう少し。東西大学学長、東京一郎の息子、秀介は天才プログラマーの高校一年生。開発したプログラムがどれも大当たりで巨万の富をこっそり手中に収めている。そんな彼が恋人のアイドル歌手尾上志津子と一緒にヤマトテレビで超能力番組の収録を見学していると、殺人事件が起こる。一目でトリックを見抜いた秀介は志津子を探偵役に仕立てて、謎を解くのだが、それが日本に進出してきたアメリカの暗殺集団「安楽死保証組合」の仕事だったことから、今度は志津子が狙われることになってしまう、志津子を守るためぐわんばれ*1秀介、というお話。
 驚くべきは昭和58年11月の発行であるにも関わらず、秀介の職業がプログラマであること。前年にはすでに「パソコンサンデー*2」も始まっていたとはいえ、さすが新しもの好きの辻先生。しかも、数億円を貯金してる主人公を紹介した後に、

ホラ話と思ってはいけない、カリフォルニアに本社を置くマイクロソフト社の会長ウィリアム・H・ゲーツはまだ二十七歳だが、読者のおじいさんくらいの年の重役たちをひきいている。
 日本ソフトバンク孫正義会長は、高一の夏休みにアメリカへ渡り、ハイスクール一年生を七日間、二年生と三年生を三日間ずつで終了して、大学へはいっている。大学三年のとき、電子翻訳機をつくってシャープに一億円で売り、その金を元手にアメリカでパソコンの会社をおったてた。

 もっかい言うけれど、これは昭和58年に書かれた文章だ。もしかすると日本の小説にマイクロソフト*3ソフトバンク*4の名前が出たのは、ここが初めてなんじゃないか?*5と、驚きのままにさらに読んでいくと、アイドルを探偵役に仕立てて、自分は陰に回る主人公って名探偵コナンを先取りしてるような設定だよなとまた感心。もっともコナンは子どもが言うことを大人が本気にしてくれないという障害設定で、秀介は自分が天才であることを親に隠しておきたいのと、恋人の株を上げておきたいという動機を持っているところは全然違うが。
 不満はNo.1と銘打っているくせに、カドカワノベルス「私のハートにあなたのメスを」という前作が存在していることと、絶版であることだ。No.2も読みたい*6
 ところで「可能克郎」はこの本にも出てくるが、他にSF「マッドボーイ」シリーズというのにも顔を出すらしい。自分用メモということで。
 とまれ本書はワクワクしながら読むことのできる良質な作品である。どっか復刊してくれねえかなあ。

*1:「ぐゎんばる」は実際に文中で使われている。この頃の言葉だったんだな。考えてみればコロコロコミックで「ぐわんばる殿下」が連載されていたのも同じくらいの頃だったような。

*2:シャープ提供「パソコンサンデー」NET:テレビ東京テレビ大阪、他 昭和57年〓 毎週日曜 午前9:30〓10:00 詳しくはこちらhttp://www.stij.org/column/ro000301.html

*3:自分用メモ:マイクロソフトの設立は1975年4月4日ウィキペディア「マイクロソフト」

*4:自分用メモ:ソフトバンクの設立は1981年ウィキペディア「ソフトバンク」

*5:調べてないので分かりません。もっと早い例を知っている方がいらしたら教えてください。

*6:どこかの古本屋で巡り会えるだろうか……。