『われら2DK超軍団』

われら2DK超軍団―SFコメディー (1983年) (Futaba novels)
辻 真先

B000J78YOI
双葉社 1983-03
売り上げランキング : 1641272

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
 アマゾンで検索しても出てこない*1ので、(←追記2015/06/20検索ワードを替えたら出ました!)まずデータを。双葉ノベルズから出た本で、発行は1983年の3月10日。定価は680円。表紙には「書き下ろしSFコメディー」「異次元に呑まれた立退き大戦争!」の文字がある。
 あらすじはこんな感じ

ボロとはいえ、愛すべき我がアパートが狙われた。宅地造成のためである。ここ扇ヶ丘一帯は、環境良好、大都市のベッド・タウン――皆さんお住みの郊外と変わりはないが、市長・警察署長・教育者が一人のボスに牛耳られていて、さながら権力者どもの理想郷、庶民はぐっと我慢の子……。あの手この手の厭がらせにポツリポツリと居住者は去ったのだが、ここにどっこい、居住権を主張するダメ人間が現れた。敵は暴力団、機動隊、自衛隊を繰り出す追いたて大攻撃、見方は無手勝流! ところがここに異変が生じた。ボロアパートに、異次元の神様が住みついたのだ!
あなたにかわって不義を撃つ、胸のすくようなエンターテインメント!

 正直なところ読み終わって、胸はかけらもすかない。というか、かなりひどい。ネタとしては『はるひワンダー愛(感想)』と同じような感じで、そこに地上げというトピックをくっつけたもの。「オクション」という単語に説明が施されているところをみると、この頃にこの言葉は使われ始めたのだろう。他にゲートボールへの言及があり、そういえばこの頃ちょっとしたブームがあったような気がすると懐かしかった。前年公開された「E.T.」への言及もある。
 と、当時を懐かしむには良い史料*2なのだが、肝心の物語がまったく面白くない。作者もこりゃまずいと思ったのか、中盤で急遽「夕刊サン」の可能克郎*3、文流社*4の雑誌「エレガンス」*5、放洋社の中込などおなじみの面々を登場させる。読者的にはそこでにわかに面白くなるんじゃないかと期待するが、これも空振り。いつもの面々はいつもと較べて驚くほど何も出来ずに舞台を去る。
 その後マス・ヒステリーやら自衛隊の介入やらに必死で抗戦する住民の姿が書かれるが、これも迫力に欠ける。そしてそのまま、どうしようもないラスト*6を向かえて幕。カタルシスも何もない。何がやりたかったのかも分からない。
 おなじみのキャラクターたちが世論の前になすすべを持たなかったところは、もしかすると自分の作品と社会との関係を寓意したのかもしれないとすこし思ったが、それも深読みすぎるだろう。
 ちょっと褒めどころを見つけられない作品だった。どんな経緯で書いたのかが気になる。「グレムリン感想)」を除けば、今まで読んだ辻作品の中で最低かそれに準ずるつまらなさだった。

*気になった単語リケッチア菌。

*1:ということはアマゾンの検索結果から全著作数335冊と思いこんだ俺の考えは甘かったと言うことか……。

*2:なお、登校拒否児のことを「自閉症」と表現しているのも、当時の「登校拒否児」と「自閉症」への理解を知る上では有益である。

*3:主要登場人物の一人鳴海と以前扇山を舞台にした連続殺人事件で顔を合わせていると書かれていたので、この作品は何かの続編なのかもしれないが、よく分からない。

*4:文英社じゃなかったっけ?

*5:主要登場人物のひとり八重子が、なんと「鉄路」編集長佐貫の妹。八重子の愛人は伊東は東西大学の教授。八重子の母親は彼女が幼い頃、病気で死んでいるらしい。

*6:はるひワンダー愛でも似たような手が使われた。辻真先はオチに困るとこれを使うのかもしれない。