どういう理由だったかは忘れたが、ここ一年くらい読みたいと思っていたら、なんと訳書が出版されたので、いそいそと読んだ。
ボヘミアのフロリゼル王子と従者ジェラルディーン大佐を主要登場人物にした連作短編集。といっても前半三本は「自殺クラブ」の会長と王子の戦いというモチーフでつながり、後半四本はラージャのダイヤモンドを巡る事件について語られているので、実質二本と言ってもいいのかもしれない。
読みたかったのは前半三本の「自殺クラブ」の方だったのだけど、実際には「ラージャのダイヤモンド」の方が面白かった。というのも、自殺クラブが単純に時間軸を追うだけであるのに対して、「ラージャのダイヤモンド」は一本目のエピソードの途中の部分を、語り手を変えて、違う視点から二本目の語り出しとして使うという手法がとられていたり、語り手の知らない設定がストーリーを進める力になっていたりと、筋の起伏もさることながら、それ以上に語りの工夫があって、そこがたまらなく面白かった。似ている感じでいうと一番最初のブギー・ポップ*1とかが近い気がする。
解説に拠れば、収められた作品は発表当時、あまり評判も芳しくなく、スティーヴンスン自身も重要視していなかったらしいが、これは少し時代の先を行っていたんじゃないかと思う。
まだ感想がしっかりまとまらないんだけど、読者が大枠を知っているのに、語り手には何が起きているのかよく分からないという場面の作り方が、面白いんだと思う。
さらに解説によると、本編には「続・新アラビア夜話――爆弾魔」という続編があって、こちらも読み物としては面白いそうだ。ただ夫人との合作で、本人が書いたのはほんの一部と言われているためか、邦訳されたことはないらしい。訳者いわく「『新アラビア夜話』で殿下のファンになった人は、一度原語でお読みになるのも良いでしょう」。
ということで、爆弾魔のテキストを捜したら出て来たのでリンクしておく。
The Dynamiter, by Robert Louis Stevenson and Fanny van de Grift Stevenson
それにしても古典新訳文庫は面白い作品を拾ってくるなと感心する。いつまで続けられるのかは分からないが、がんばって今の質をキープして欲しいところ。
追記:ちなみに一番印象に残ったのは次のくだり。227ページ
無為に時を過ごさないためと、生活にいくらか彩りを添えるために、フランシスはユークリッド幾何学のフランス語訳を買っておいた。彼は旅行鞄を机にして、それを写し、翻訳をはじめた。
いったいなぜにこの断片が必要だったんだろうと気になった。
新アラビア夜話 (光文社古典新訳文庫)
Robert Louis Stevenson 南條 竹則 坂本 あおい
光文社 2007-09-06
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*1:ただしもはや記憶が曖昧なので、本当に似ているかどうかは保証しない。