J.L.ボルヘス 土岐恒二訳『永遠の歴史』

永遠の歴史 (ちくま学芸文庫)
ホルヘ・ルイス ボルヘス Jorge Luis Borges

4480086250
筑摩書房 2001-03
売り上げランキング : 432389

Amazonで詳しく見る
by G-Toolsasin:4480086250
 ボルヘスによる「珠玉の哲学的エッセイ集」。
 以下目次。

  • 序文
  • 永遠の歴史
  • ケニング
  • 隠喩
  • 循環説
  • 円環的時間
  • 千夜一夜』の翻訳者たち
    • 1バートン大尉
    • 2マルドリュス博士
    • 3エンノ・リットマン
  • 覚え書 二篇
    • アル・ムウタスィムを求めて
    • 誹謗の手口

 面白いのかどうかもよくわからないというのが、ボルヘスを読んだときに思うことで、すっげえ面白いような、とってもつまらないような、と、宙づりになったまんま、ひとつひとつは短い文章を読み終えるという以外の読み方を知らなかったりする。そのくせ、タイトルを見ると「うわ面白そう」と思うのだから我ながら不思議だ。特に好きなタイトルは「砂の本」らしく3回か4回買った。このままではまた買ってしまうと思い、昨年やっと読了したが、内容はほぼ忘れた。本書を読んだのも、放っておくと持っているのを忘れてダブらせてしまいそうだったからで、二日前に読み終えたばかりだというのに、内容はほぼ忘却されようとしている。薄れゆく記憶をたぐり寄せてみると、表題作よりアイスランド詩のケニング(「あらかじめ定められた同意語句」と説明されている)を扱った「ケニング」その次の「隠喩」「『千夜一夜』の翻訳者たち」なんかが面白かったが、もっとも魅力を覚えたのは、「アル・ムウタスィムを求めて」だった。こんな書き出し。

 フィリップ・グウィダラは、ボンベイの弁護士ミール・バハードゥル・アリーの小説『アル・ムウタスィムを求めて』(The approach to Al-Mu'tasim)について、「それはほとんどつねに訳者の関心をひきつけずにはおかないイスラムの寓意詩と、必ずジョン・H・ワトソンの手には負えなくなり、ブライトンのもっと行き届いたペンションで人生の恐怖の仕上げをするあの探偵小説との、なんとなくしっくりしない組合わせ(ア・ラーザー・アンカムフォタブル・コンビネーション)である」と書いている。しかしむしろ、セシル・ロバーツ氏がバハードゥルの本の中で「ウィルキー・コリンズと十二世紀の著名なペルシアの詩人ファリード・ウッ・ディーン・アッタールとの、二重の、ありそうもない後見」を指摘しているが――その穏やかな意見をグウィダラはそのまま何も新しいことは付け加えずに、しかし怒りっぽい独特の調子で繰返しているのである。基本的には二人の著者の言うことは一致している。二人ともその作品の探偵小説仕立てと、神秘主義的な底流(アンダーカレント)とを指摘している。そのような異種交配はなにやらチェスタトンとの相似をわれわれに想像させるかもしれないが、すぐにそうではないことがわかるだろう。
『アル・ムウタスィムを求めて』の初版は一九三二年の末にボンベイで出た。用紙はほとんど新聞紙同然であり、表紙には、買手に向けて、その本がボンベイ市の出身者によって書かれた最初の探偵小説であると謳われていた。(中略)それが、ドロシー・L・セイヤーズの序文をつけ、挿絵のほうは――おそらくそうしてくれて幸いだったが――省いて、ロンドンのヴィクター・ゴランツ社からつい最近翻刻された本の原版である。いま私の目の前にあるのはその翻刻本のほうで初版本には未だに巡り会っていないが、初版のほうがずっと素晴らしいことだろう。

 ボンベイ(今はムンバイっていうの?)出身者が初めて書いた探偵小説ですよ。いったいどんなもんなのか。

 その作品の目に見える主人公は――その名はついに一度も口にされることはないが――ボンベイ法律学生である。彼は不敬にも父祖の宗旨たるイスラム教を信仰していない。しかし、ヒジュラ暦睦月十日の夜が暮れるころ、イスラム教徒とヒンズー教徒の騒乱の渦中に巻き込まれてしまう。それは太鼓と祈願の声の響く夜であった。(中略)(騒乱の最中)死物狂いの手で彼はひとりのヒンズー教徒を殺す(あるいは殺してしまったと思い込む。)

 そして、騎馬隊もやって来て、大混乱の中、主人公は市からいちばん遠い郊外を目指して逃げ、潜伏する決心をする。彼は、自分が一人の偶像崇拝者を殺すことはできたかもしれないが、イスラム教徒のほうに偶像崇拝者よりも理があるかどうか、確信をもって知ることはできないと考える。そして前夜耳に挟んだ「マルカ・サンシ」という女を捜し出してみようと決心する。全21章はその遍歴の物語となる。それは「ある魂が他の多くの魂に残していった仄かな反映を通してその魂をあくまでも探求する」物語だという。
 もうね、すごい読みたくなった。とりあえず、kindle版があったりしないかと検索かけたらノーヒット。1932年の出版ならまだ無料で読むのは難しそうだと思いつつ、タイトルでググってみる。
 そうしたら、
 そうしたら、
 こんなのが出てきた。

"The Approach to Al-Mu'tasim" (original Spanish title: "El acercamiento a Almotásim") is a fantasy short story written in 1935 by Argentine writer Jorge Luis Borges.
(『アル・ムウタスィムを求めて』(スペイン語原題:"El acercamiento a Almotásim")は、アルゼンチンの作家ホルヘ・ルイス・ボルヘスによって1935年に書かれた幻想短編小説である。)

http://en.wikipedia.org/wiki/The_Approach_to_Al-Mu%27tasim

 激しくやられた……。ほんとに読んでみたかったんだけど、これ……。