本格ミステリ鑑賞術 (キイ・ライブラリー)
福井 健太
東京創元社 2012-03-22
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第13回の本格ミステリ大賞評論・研究部門受賞作品。どんな本かは序文がコンパクトにまとめてるので引用しとく。
本格ミステリは保守性と変革性――既成のコードを守っていく価値観と、新たな試みに挑もうとする意志のパランスを探りつつ、歴史を通じて多くの傑作を生み出した文芸ジャンルである。そのセンスと蓄積が小説だけではなく、多彩なメディアでも有効に機能することは言うまでもない。貪欲なまでの融和力を通じて、本格ミステリ的なるものはエンタテインメントの世界に遍在しているのだ。
本格ミステリの広がりは歓迎すべきことだが、それらを十全に満喫するためには、受容者にも相応の素養が求められる。職人の想いと技巧を知らなければ、創作物への理解は浅くならぎるを得ない。図像学が絵画の鑑賞を深めるように、パロディの把握には元ネタの知識が問われるように、そこでは無数の審査が行われている。楽しみ方は自由だという前提を踏まえたうえで、多くのファンが愉悦とともに学習したシステムを「こう読むほうが楽しめる」「これに気付かないのは勿体無い」と整理すること――具体例を伴う技術論として、優れた本格ミステリの技法を抽出し、鑑賞法の基礎を記すことが本書の目的なのである。
で、目次はこんな感じ。
- 序文
- 第一部 原則篇
- 第一章 フェアかアンフェアか
- 第二章 伏線の妙味
- 第三章 ミスディレクション
- 第二部 鑑贅篇
- 第一章 犯人特定のロジック
- 第二章 動機の問題
- 第三章 解決の多層性
- 第四章 操りのシステムと罠
- 第五章 倒叙という本格
- 第三部 技巧篇
目次見て興味を感じる向きには楽しめるんじゃないかと思うが、一点だけ。この本は各章ごとにいくつもの作品を取り上げて論じているが、そのうちのいくつかは完全にネタを割っている。個人的にはネタも割らずにミステリ論じる(買うように煽るのではなく)なんて無茶だと思うし、読んだ結果は無駄なネタバレだと思う箇所はなかったので、疵とも思えないのだけど(あ、そういえば「叙述トリックの鬼子性」って章だけはさすがに飛ばして読んでない。)、人によってはネタバレ、駄目、ゼッタイ。の人もいるから、一応老婆心ながら注意をば。ついでに言うと、この本買ったのは、某作家が「知りたいことが書いてあった」と言ってるのを見て、何が書いてあったんだろうと興味を持ったからだった。そもそも何が知りたいことなのかが書かれてなかったのだから、それが書いてあるのかどうかわかるはずはないのだけどね。そんなわけで、ミステリー書きたいと思ってる人が読んでも得るものがあるのかもしれない。