ヴァージョン・ゼロは嘘をつく
優騎洸
石窯社 2014-07-04
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第6回ミステリーズ!新人賞で最終選考まで残った作品。先日12回の一次選考結果をなんとなく見に行って、この人の名前は見覚えあるなあと検索窓に入れてみたら、いちばん上に出てきたのがamazonの著者ページで、そこ見たときに「お、知ってるぞ」って購入したのが、この作品。作者名と結びついちゃいなかったが、タイトルがなんとなく印象深かったので覚えてたんだよね。タイトルって大事。ちなみに途中選考で消えてしまった作品で、読んでみたいと思うほどインパクトあったタイトルがもう二つあって、ひとつは11回の吉美駿一郎「なりすましのヘイト」、もうひとつは第9回の松本卓也「『怪物くん』読んどったら、謎はとけるんや」。KDPしてくれないかなあ。
で、本作のぼやっとしたあらすじ。
視点人物(ってかロボット)のダブロは吉田書店の店員で、ロボット二台がお互いの情報を与え合うクロスアップというバージョンアップ法を行った結果、書店員としての作業がわからなくなってしまい、上司から大目玉を食らい、明日もう一度クロスアップして作業を覚え直すよう厳命される。
ダブロが所有者神崎博士の家に帰ると、ずいぶん旧型なロボットが家にいる。博士が町で見かけて買ってきたものだった。そのロボットはIDゼロ(作業が一つも覚えられない)ロボットだった。しかしそのロボットも最初からIDゼロだったわけではないことが履歴を調べた博士によって証される。
この履歴を見ろよ。どうやら、吉田書店のロボットとクロスアップをしたのが原因だ
クロスアップは学習可能な作業数(ID)を掛けあわせ、元IDの大きい方が小さい方のID番号を自分のID番号に掛けあわせたのに等しい作業数を増やせるバージョンアップ法だ。たとえばID6のロボットとID3のロボットがクロスアップすると、ID6のロボットはID18になる。しかし、片方がID0なら、クロスアップした相手もIDゼロになってしまう。さらにタイトルにもあるとおりID0のロボットはロボットに対して嘘までつくことがわかった。
ここで問題なのは、ダブロが翌日、店でクロスアップするように厳命されていることだ。うっかりするとID0のロボットとクロスアップしてしまうことになる。しかもID0はロボットに対して嘘をつくので、正面から聞いたところで相手がID0かどうかはわからない。果たしてダブロはID0のロボットが誰なのか見抜き、無事クロスアップを終えることができるのだろうか。
で、何がどうしてどうなったってところはネタバレなので当然言及しない。
ただ、ミステリーで大事なのって、謎解き読んでて「わくっ!」って感覚が起きるかどうかだと思うのね。本作はそれがちゃんとできてた。どうやって「わくっ!」を作ってるかの確認ができるってだけで、600(ミステリーズ!新人賞の応募数って毎年その前後だよね)くらいは売れていいんじゃね?というのが感想だろうか。あ、とっくにそんな数超えてたらすんません。
じつを言うと、その「わくっ!」が来るまではいささか退屈(ってのは、設定の全体像の開示があんまりスムーズじゃないんだわ。おれにはIDのところとか特に飲み込みにくかった。)だなあと思ってたんだけども、「謎解き始まりますよ〜」のところで、しっかり前のめりになったんで、逆に上手だなあと感心したりした。amazonの著者ページ見ると鮎川賞の最終にも残ったことがある人みたいなんで、上手だなあとか褒め言葉にならんのかもしれないけど。
ああそうそう、謎解きと全然関係ないとこでうまいなあって思ったところがあったのだ。それはロボット同士の会話。気に入ったのは以下。
「聞いたぜ? クロスアップに失敗したんだって?」
「その通りで」
「そりゃ、ご愁傷さま」
言って、二体はお互いの顔を見合わせる。
「ねえ、今、俺の台詞、人間ぽくなかった?」とシスティ。
「うん、今の、いいねえ」
「人間ぽくなかった?」ってなかなか思いつかないよね。ここ読んだところで、取りあえず最後まで読もうと思った。
気が向いたらほかの作品も読んでみようかな。