谷粼潤一觔「白昼鬼語」

潤一郎ラビリンス〈7〉怪奇幻想倶楽部 (中公文庫)
谷崎 潤一郎

4122032946
中央公論社 1998-11-18
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by G-Toolsisbn:4122032946
白昼鬼語」(1918年5月〜7月「大阪毎日新聞」「東京日々新聞」に連載)を読んだ。「探偵小説と日本近代*1」(2004)という本で取り上げられていた*2ので、なんとなく読んでみた。ストーリーは語り手の友人である園村という男が電話をかけてくるところから始まる。
 今夜殺人が起こるから見物しに行こう。園村はそう持ちかける。語り手は園村の精神がどうにかなってしまったのかと思いつつ、それに付き合うことになる。そして本当に殺人事件を目撃する羽目になる。
「探偵小説と日本近代」では、これを「変格探偵小説」だと捉えているのだけど、ちょっと無理があるように思った。確かに「黄金虫」(1843)の暗号が使われているし、殺人事件もあるけれど、ここには謎の提示とその回答がまったくない。殺人を行う女に対して園村はあれこれと推理を披瀝*3するが、すべて思い込みであって、とても推理などとは言いがたい。谷崎にしてもこれが探偵小説であるなどとはかけらも思っていなかっただろうと思われる。妖艶な女を書きたかっただけだろう、たぶん。
 自分としてはむしろ「探偵小説と日本近代」の論者がなぜこの作品を「探偵小説だ」と言わなければならなかったのかということに興味がある。探偵小説なるものを日本近代文学研究の領域であつかうということに伴う桎梏なのか、それとも近代文学延命のために探偵小説というジャンルに接続する必要があったのか。個人的には後者だと思う。理由は「探偵小説と日本近代」というタイトル。
 あ、そんなことより作品自体はどうってこともなかったけど、それなりに女が艶っぽくて悪くないです。

*1:付録の年表知り合いが作っていてビックリ。

*2:探偵小説と変形する身体―谷崎潤一郎「白昼鬼語」と江戸川乱歩「鏡地獄」

*3:謎といえばこの女が謎なのだけれども、園村は結局、女が何者なのかということについて思い付きを述べているだけである。