バタバタ

 一昨日大学時代の友人たちと新年会めいた催しをした。友人のひとりが京都からおせちをとりよせ、別の友人宅にてみんなでそれを食べた。話すのは何年ぶり? なんて後輩もいたりして、楽しい席になった。ちょうど英語のできる奴がいたので、受けようと思っていた翻訳トライアルの原稿を持って行って、違和感のあるところを指摘してもらったりして、締め切り間際の悪あがきに協力してもらう。数年ぶりで麻雀なんかもやった。そしたら終電がなくなっていて友人宅にごやっかいに。あれこれ話しこんで、すぐに寝るって言っていたのが引っぱりすぎだろと眠ることに。
 そうしたら朝の七時半に親から電話が入って、祖父の具合が良くないからおまえ今から向かってくれとのこと。大あわてで友人宅を出る。ろくすっぽ挨拶もしなかったのは申し訳ないことだった。
 祖父宅へ向かう途中で、祖父が救急車で病院に向かったという連絡があり、こちらもルートを切りかえ病院へ。救命センターで落ち合った祖母とともに、検査が終わるのを待つことに。ロビーのでかいテレビでは派遣村やら渋谷のハッピー・ニューイヤーやら、チベット体操を紹介する美輪明宏やら、わかりやすく日曜の朝である。
 やってきたお袋と三人して案内に従い祖父のところへ。医師の診断では肺炎。入院が必要だというので、手続きなどに昼過ぎまでかかった。酸素吸入のマスクが鬱陶しいのか、祖父はしきりと外したがり、それをたしなめなると照れたように笑っていた。意識もあるようだしまずは良かった。
 入院の説明ではヘラヘラした女医(明るい気分を演出しようとしていたのかもしれない。ただ我々は救急車で運ばれた89歳老人の家族なのだ)が、ヘラヘラと「肺炎がこれから悪くなったときに人工呼吸器を付けるかどうか決めてください」とかなんとかルール通りの決断を迫ってきて、そういうもんだとはわかっているが、おまえもう少し安心感を売ることはできないのかと不愉快だった。同じ説明を病室に入って看護師からもされたけど、そのときにはこんな風に思わなかったので、むこうの話し方にも多少問題があったのではないかという気がいまもする。医師の説明は「文句をつけられないための布石でやってますから」という印象ばかり受けてしまった。もっともそれは、俺が寝不足だったためかもしれない。
 とはいえ相手は祖父の命をあずかる人間なので、感情的になってもデメリットしかないし、忘れることにしてみた(憶えてるからいま書いているわけだけども)。祖父もひとまずは落ち着いているみたいだったし。人工呼吸器の件は、ここにいない家族とも相談して明日伝えるというとあちらも納得してくれた。
 そのあと祖父の入院した個室で、母が入院用の質問用紙に記入するのを見ていたら喫煙の質問があって選択肢は「吸う、吸わない、禁煙」。祖父は去年大腿骨を骨折し入院した。そのときから禁煙している。なので丸をつけるのは「禁煙」。「  歳から」というところに「88歳から」と記入して母が「88歳から禁煙」という語感が何か妙だと言いだして、みんなで「そうだねえ」と笑う。
 昼過ぎに病室をあとにして、迷路みたいな病棟を迷い迷いタクシーで祖母を家まで送り届ける。病院通いで頭をいっぱいにしすぎて自分が倒れないようにくれぐれも気をつけて、なんて話をし、今後の打ち合わせ。退院後の食事をどうしていこうとか。
 一時半過ぎに祖父宅をあとにする。とにもかくにもなんとかなりそうでよかったと母と話し合う。実は我が家では、年末の28日にサイトのプロフィールに載せた足の持ち主だったネコが17年の天寿を全うしたばかり。一週間で二発も喰らうのはちとキツい。元旦に墓参りに連れて行くと親父が言ったのを喜ぶ顔が最後でしたなんてことにならずに済んで本当によかったねえ。人工呼吸器の話はどうしたもんだろうねえ。とりあえず今回乗り切ったら本人に今後そういうことがあったときにどうしたいか訊ねておかないといけないねえ。叔母はフランスで暮らしているし、家族の意見をまとめるのにも時間がかかるし。
 ということで、帰宅後母は国際電話で叔母と話し合い。義理の叔父は医者で肺炎は薬次第で呼吸の苦しさが変わるから、どんな治療をするつもりなのか、英語で医師から説明を受けられないかと親身になってくれた。しかしながら医者が英語ペラペラなんてイメージがないのでその旨を伝えると「医者だろ?」という返事。国によって色々なもののイメージが違う具体例だわなと思った。
 そのあとで友人からの指摘を参考に訳文いじり。気分は乗らなかったけれども、人を巻き込んだ以上は疲れたから投げるとは言えないし、祖父の件でバタバタしていたからできませんでしたとも言いたくないでしょうと頑張ってみる。だいたいできたので提出は明日にして、軽く寝ることにした。気付けば次の日(今日)の朝。バタバタという足音で目が醒め、入ってきたお袋から祖父の心臓が止まったと報される。母は再び祖父のところへ。俺は待っていろといわれたので留守番。いつも祖父のことで頭をいっぱいにしていた祖母が糸が切れたようになったらどうしようと考えるくらいで、正直まだピンと来ていない。
 とりあえず、数日はまだバタバタしそうだ。