幸満ちゃん事件で3つの障害者団体が要望書を出したことについて

また批判を集めそうな、こんな記事を見かけた。

【幸満ちゃん事件】「知的障害に配慮を」 3団体要望
2009.1.6 18:35

このニュースのトピックス:殺人事件
 千葉県東金市の成田幸満ちゃん殺害事件で、殺人容疑で再逮捕された勝木諒容疑者(21)の取り調べについて、千葉県内の3つの障害者団体は6日、勝木容疑者に知的障害があることに配慮し、取り調べの全過程を録画・録音することなどを千葉地検と東金署に申し入れた。

 3団体は、主に知的障害者の保護者が所属する「千葉県手をつなぐ育成会」(千葉市)や「千葉県自閉症協会」(同)など。要望書では「知的障害者は質問の意味を取り違えたり、質問する側の誘導を受けやすかったり、本人が意識しないままに迎合が生じる」と指摘。「はい」か「いいえ」で答えるような質問をせず、容疑者が自由に説明できるように求めた。

 また千葉簡裁は6日、勝木容疑者について、千葉地検の請求通り10日間の拘置延長を認める決定をした。新たな拘置期限は16日。

http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/090106/crm0901061837031-n1.htm

 こんな事件の起きることが許されて良いはずがない、という前提のもと、あえて言うけれど、この要望は正しい。
 産経の見出しがまた例によってミスリードなんだけど、「知的障害に配慮を」ってのは、「可愛そうな知的障害者をいじめるな」って話でもなければ、被害者の人権よりも加害者の人権を優先しろってな要望でもない。単純に「彼が何を、何故やったのかという真相解明が、健常者の場合よりも手間がかかるものになるから、対策をしてね」というだけの話である。
 世界はマジョリティに対応するノウハウでできている。陳腐な具体例で言えば自動改札は右利き用にできている。左利きは40パーセントもいるのに。当然警察の取り調べ方法も、マジョリティから真実を引き出すために作られている。知的障害者は数の上では平成17年段階では人口千人に対して4人(ソース)の圧倒的マイノリティだ。警察は対犯罪者のプロフェッショナルであっても、0.4パーセントの知的障害者から真相を引き出すノウハウや、知的障害者が本当のことを言っているかどうかを見極めるノウハウに関しては乏しいという推測は恐らく外れない。しかし他にやりようがないじゃないかと突き進めば、真相とまったく違う物語が出来上がってしまうと考えるのは、無茶ではない。この要望書のソースが探しても見当たらなかったので、ここから書くことは推測になるけれども、この要望書は「知的障害者の人権を守れ」あるいは「捜査に手心を加えろ」という主張ではなくて、「知的障害者に対応しない捜査方法で真実を隠さないでくれ」という主張なのではないか。
 考えても見て欲しい。これら団体の所属者は大半が親である。もしたとえ子供を手にかけたとしても、知的障害者であるなら、許されてしかるべき、なんて主張をしたら、所属者の大半は同意しないはずだ。そうした犯罪の被害に障害者なら遭わないなんて保証はない、いやむしろ、身の回りに知的障害を抱えた人がいる環境といって、この人たちほどそういう環境にいる人たちはいないのだ。
 で、ある以上、これら団体が被害者よりも加害者の擁護をなんて主張をすることはありえない。仲間だから庇いあうんだと思う人もいるかもしれないが、誰かの子供が別の子供を殺したとして「子供のしたことだから罰を与えない方が良い」なんて主張する親はいない。それは自分の首を絞める行為になる。障害者の子を持つ親だけが、そう考えないなんてことがあるわけがない。その前提が共有されていないから、今回の要望書提出みたいな話が、批判の種になっちゃうんだろうと思うけど、書かれていない前提はないのではなく、書く必要がないと判断されているだけだ。
 こういう事件で警察や被害者とその遺族や、事件を知ってしまった我々が知りたいのは、誰が何故何をして、それは解決したのかということのはずで、この要望書は答えへ辿り着くために有効な手段を提案しているだけであり、決して答えを歪めようとしているわけではない。
 それを叩くのは、叩いている人のうちのほとんどが求めたいものと違うものを求めるような行為だろう。安全のために必要なのは脊髄反射ではなく、正確なデータベースとそれにのっとった対策だと俺は考える。