友達と飲んできた行き帰りの電車の中で読む。昭和28(1953)年3月初出。元タバコの専売公社勤めの国助は「たばこは万人が好むものなのだから、たばこの学問はその応用の面において万人の幸福のためにもっとも上等のたばこをつくり出すことにことにある」という思想のもと、タバコの研究にいそしんでいたが、レッドパージで馘首になり、飲み屋でKという男から仕事の斡旋を受ける。内容はタバコをタバコ屋に納入すること。しかしこのタバコ一見ピースのようでそれとは違い、ピースの臭いが嫌いな犬も大喜びするような不思議な代物。国助もKから渡された「明日語」なる言語の入門書を読み進めるに従って、一見ピースな新ピースが薫り高く味も良いことに気付く。職場では明日語の新聞なども刷られていて、政治家の暗殺事件が報じられている。しかしそれは翌日の話題が先取りして書かれているのだった。
 新しい平和(ピース)を作るために必死になっている職場の人々の営為はしかし国助が職場の部屋で古いピースを吹かしたことが原因で崩壊する。部屋に残った古いピースの黒い染みから外の警官隊が突入し、一味はちりぢりばらばら。一味は「タバコの偽造団兼テロリストグループ」として報じられる。国助も仲間だと思われかねないので逃げて回るが、やがて警察に逮捕され、拘留される。
 ラストはヒロインめいたキャラクターが鷹に変じて、飛び去り、国助は留置所から脱走川に飛び込んで終わる。


 なんのことやらわからないあらすじのまとめになったのは、読んでいた人間(俺)がなんのことやらわからなかったからだ。現行ピースと新しいピースは恐らく「いま考えられている平和」と「あるべき平和」の対比になっているし、職場で用意された部屋と留置所がそっくりというのは、理念の檻的なメタファーでないかと思った。その中で囚人たちがじたばたしているところは妙にわくわくした。けれどそうなると、子犬や少女は何をあらわすのか。子犬がどこへでもついてくるところから考えて寓話で読まないと、ちんぷんかんぷんなはずなんだけれども、キーを取りきれなかった感じ。隔靴掻痒の気分ばかりが残る、もったいない読書になった。残念。

鷹 (講談社文芸文庫)
石川淳

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