二人権兵衛

 狐狩りをこととする権兵衛は狐を捕る罠をゴンベに壊される。首を切ると脅すが盂蘭盆まであずけることにする。狙いは担保の米一俵。天保年間飢饉の頃であれば、首のひとつよりも米の方をもらいたい。
 ところがこのあと、展開は狐の恩返しに。なんてことはない馬鹿話ではあるが、「三方丸くおさまった」というフレーズが味わい深かった。
 ところでこんな「てっきり」の用法があるのかと目に止まった箇所があった。

権兵衛は中山法華経寺の裏山にのぼって、然るべきところにワナを張っておき、いったん引きかえして、夜陰におよび、ほどよき刻限に、またそのところにのぼって行った。行って見るまでもなく、いつもの習によって、狐はてっきりそこに落ちているものと知れていた。

「てっきり」〜「知れていた」って呼応がおかしくねーか? と大辞林に当たってみたら、てっきりの語釈には

(1)ほとんど確実であると考えられるさま。確かに。きっと。多く,予想と異なった場合に用いる。 「 ─ ばれたと思った」
(2) 想像したとおりであるさま。 「法学士, ─ 然うだ /青春 風葉 」

 どうもここでは(2)の用法で使われているようだ。まだ生きてる用法なんだろうか。
 この作品にはもう一カ所ゴンベの女房の描写に「とんだはたらきもの」というのがあって、「とんだ」が褒め言葉になるのけ? と、これも大辞林に当たってみた。

とんだ

■1■ ( 連体 )
(1) 思いがけないさま。意外で大変な。とんでもない。主に,よくない意で用いる。 「 ─ 災難だった」 「この度は ─ ことでした」 「 ─ 過ちをしでかした」
(2) ひどく道理にはずれた。あきれた。とんでもない。 「 ─ うそを言いやがって」 「 ─ お笑いぐさだ」
(3) (逆説的に)すばらしい。とてもよい。 「 ─ 美人だ」
■2■ ( 副 )
思いがけず。非常に。 「新宿がはやつて, ─ 美しいが出るときいて /咄・聞上手 」

 この場合は連体詞の(3)の用法だろうか。ところで、この項目を見たら関連語に「とんだ茶釜」というのがあった。意味はこんな。

明和( 1764〜 1772 )頃の流行語で,「思いがけない美人」の意,という。

 なんで茶釜が美人になるんだろうか。茶釜も引いてみたところ、「茶をたてる湯をわかす釜。多く鉄製で,上部がすぼまり,口が小さい。」とあった。口が小さい=美人って価値観?