北杜夫 怪盗ジバコ

 初北杜夫。怪盗ジゴマ*1のパロディか? と大いなる勘違いをして読み始める。すぐにわかったことであるが、ジバコはジゴマとは全然関係なく、たまたまその当時ノーベル文学賞を受賞したソ連の作家ボリス・パステルナークの「ドクトル・ジバゴ」のもじりだった。ウィキペディアによればドクトル・ジバゴは「ロシア革命の混乱に翻弄される、主人公で医師のユーリー・ジバゴと恋人ララの運命を描いた大河小説*2」とのこと。しかしこちらはそんな話とは全然関係がない怪盗の話だ。「クレージーの怪盗ジバコ(amazon)」というタイトルで映画化されていることからも明らかなように、ユーモア小説のカテゴリに入るような作品なんだと思われる。俺が読んだ新潮文庫版では8本の短篇が収録されていた。怪盗ってのは魔法使いのバリエーションなんだなあと思わせるような話ばかりだった。
 いちばん面白かったのは「女王のおしゃぶり」というエピソード。山林王山下岳衛門は世界有数のおしゃぶりコレクター。その彼自慢のコレクション「女王のおしゃぶり」(エリザベス一世がロンドン塔に幽閉されていたときに使用したものとされている)をジバコが盗みに来た顛末を描いたもの。別になんて話でもないんだけれども、山下岳衛門の描写に一貫性が感じられてちょっと感心した。
 和田誠のイラストも良い感じ。
 その次の「蚤男」は、あまりに丸投げでいっそすがすがしいというか、なんじゃこりゃというか、なかなかの問題作だと思われる。
 解説は埴谷雄高で、北杜夫のユーモア作品がたとえば不思議の国のアリスなどと同じ水準で語られることがないのは、日本の文芸批評が駄目駄目だからだと持ち上げている。
 しかし個人的にはそこまでのものとも思えなかった。ユーモアってこういう奴のことをいうのかなあ。まあアリスが笑えるのかと言われると別段笑えないから、俺の感想はあてにならないとも思うけど。
 上で褒めた一本を除くと俺にはピンとこない短編集だった。人によってはおもしろがれるかもしれないとは思う。


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現在入手しやすい文春文庫版も張っておく。
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2013/06/13追記 キンドル版が出ていた。確認時の価格は473円。

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*1:「怪盗ジゴマと活動写真の時代(amazon)」は面白い本だったなあ。

*2:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%89%E3%82%AF%E3%83%88%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%B8%E3%83%90%E3%82%B4