久楽健太『アルファマン・リターンズ』

アルファマン・リターンズ
久楽 健太

4062180103
講談社 2012-11-27
売り上げランキング : 264667

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

 所用で本屋に行って、表紙に持ってかれた結果、購入。そのまま全部一気に読んでしまった。間違いなくガキの頃に刷り込まれたフェティシズムを刺激されたのだと思われる。

 それはさておき、書影ではわからないのだが、本書の帯はとてつもなく魅力的(あくまでも俺にとっては)だった。ぜひとも実物を見て欲しい。
 その帯に書かれたあおりが以下。

正義のヒーローが悪に勝利する。
物語はそこで終わる。
しかし、考えたことはないか。
「役目を終えたヒーローに
残されたものは何か?」
正体を知られることなく役目を終
え、ひっそりと生きる元ヒーロー。
そんな彼の復活を促すかのように
新たな敵が現れる。
敵の正体とは。
ヒーローの復活を望む者とは。
そもそも、ヒーローとは。
善も悪も揺らぐこの時代に今、
古くも新しいヒーローが
復活するっ!

新感覚、英雄復活譚。

 これが宇宙をバックに赤と黄色の文字で書かれている。宇宙ってところが超素敵。
 話の中身はほぼ帯に書いてある通り。十年前、銀河を股にかける悪の大犯罪組織『マグーン』は地球を侵略すべく、侵攻を開始したが、正義のヒーロー、アルファマンが立ちあがり、一年間の死闘の末に、平和を取り戻した。そして今、元アルファマンはしがないフリーターとしてその日暮らしを送っている。アルファマンは宇宙に去ったというのがもっぱらの評判で、わずかな例外を除けば、その人物がアルファマンだったことは知られていない。
 ところがある日、地下鉄に毒が散布され、犯人から犯行声明が出される。

 ボクは彼(アルファマン)を斃したいのです。十年前、どんな凶悪な怪物たちにも果たせなかった偉業を、ボクは成し遂げたいのです。……改めて言います。アルファマンと闘い、斃すこと。それがボクの目的です。そのために、彼をおびき出すために、ボクはこれからも罪のない人々を殺していきます。
(中略)
 そう、ボクはポイズン。アルファマン、キミの前に現れた、十年目の新たなる“敵”だ

 かくして元アルファマンは再び立ちあがることになる。っていうようなストーリーラインで、ヒーローだった人間のうだつの上がらないその後っていうと、映画版の『電人ザボーガーamazon)』始め、様々なお話が語られている。では後発の本書の新しさはどこにあるか。

……特に見当たらなかった(てへぺろ)。

 キャラの配置やテーマはいずれも見覚えがあり、よく考えるまでもなく、「ヒーローのその後」ってモチーフ自体、もはや手垢がつきまくっている。そのため、「新感覚」を求める向きにはうけないんじゃないかというのが率直な感想だ。

 けれども、俺個人はさっきも言ったように、買ってきて一気読みした。なんでか。上でも言ったように、フェティシズムを刺激されたからだ。ガチのヒーロー物フェチなんだなという自覚を得るくらいに。

 本書の最大の特徴はそこにあると、俺は考える。これは別段パロディではない。ガチなのだ。そのくそまじめさが、パロディやおふざけにしか思えない形式と結びついて、目新しいアイディアのほとんどない、ただガチなだけの物語を生み出している。そこに痺れたから止まらず最後まで読んだのだと思う。紹介の俎上に載せるのがこんなにやっかいなネタもあまりない。だって、プロットを語っても魅力的に見えないんだもん。実際に読んだときのまえに進ませる駆動力は、著者がこの手の話が大好きで、その情熱を文に乗っけているところにあり、決してストーリーやらアイディアやらにあるわけじゃない。子どものときに大好きだった昔話とか、30分ものの特撮とかアニメとか、みんなそんな感じだったと思う。桃太郎のプロットを紹介とかしても誰も面白そうとは思わないだろうけど、「昔々あるところにお爺さんとお婆さんが」って語り出したら、結構最後まで聞いちゃうあの感じが本書にはある。でもって、そういう話ってのは、新しさなんていらなかったりする。親が毎日のように同じ話を語り聞かせてて、飽きて、ストーリーや表現を変更すると、子どもが「そうじゃない!」って怒るって話をたまに聞くけど、この本を読んでるときの読者もかなりそういう気分を味わうんじゃないかと思う。つまりこれはとっくに知っていた話をもう一度聞きたくて読むタイプの話だ。それゆえ、目新しいところが特に見当たらないのは、取り立てて欠点とはならない。紹介のしにくさとか口コミの広げにくさとか、売上絡みの欠点にはなっても、少なくとも作品を読むときの欠点ではないと思う。もし欠点だと言われても、自分はその欠点故により一層、この話が好きだ。もうね、むっちゃ楽しかった。

 心配なのは、シリーズ化前提みたいなんだけど、読書メーターとか、amazonのレビューとかで反応を見ると、やっぱりあんまり動いてる気配がないんだよな。続刊出せるところまで行けるんだろうか……。

 すっかり書き忘れていたのだけど、本書は「ワルプスギス賞」の第一回受賞作らしい。「講談社がネットからの才能発掘を目指す」賞なんだとか。へえ。

追記2017/12/08 キンドル版が出ていた。紙は品切れになっていた。残念。
アルファマン・リターンズ
久楽健太

B00BFAS2EA
講談社 2012-11-27
売り上げランキング : 240893

Amazonで詳しく見る
by G-Tools