ロバート・クーヴァー越川芳明訳『ユニヴァーサル野球協会』

ユニヴァーサル野球協会 (新潮文庫)
ロバート クーヴァー Robert Coover

4102328017
新潮社 1990-08
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 部屋の奥から出てきたので読んだ本。いや、面白かった。もっと早く発掘しておけばよかったな、これ。

イオニアズのスーパー・ルーキー、デイモンがついに完全試合を達成。スタンドの熱狂は最高潮――だがこれは、冴えない中年会計士ヘンリーの頭の中だけにある架空のプロ野球リーグ、ユニヴァーサル野球協会の話。まじめ一筋の彼の唯一の趣味が、この精緻きわまる野球ゲームなのだ。しかし、そこで起きた大事件がヘンリーの人生を狂わせはじめる……。
愛と優しさに満ちた現代のおとぎ話。

 以上カバー裏側の内容紹介。最後の一行はかなり首を傾げるものの、そこまでのあらすじはだいたい合ってるか。ヘンリーがやっている野球ゲームは、サイコロを三つと、状況に応じた対応表からなっていて、8つのチームがひとつのリーグを形成している。でもって文章はヘンリーの頭のなかで進む出来事とヘンリーを地続きにして語られる。なもんだから、ゲームっていうイメージとちょっとずれるかもしれないが、たとえばおれがだらだら続けてるワンフトとかwebサカとかでも、選手にすっかり感情移入してしまう場合があるので、荒唐無稽という感じはしなかった。だけど、おれなんかはゲームのオーナーっていう役割のプレイヤーとしてゲームに関与するわけだけども、この物語の主人公ヘンリーはひたすらサイコロを転がして膨大な記録(本書が始まった段階で50シーズン以上)をつけ続けており、別段特定のチームを率いて優勝を目指すというようなことをしているわけではない。ずっとリーグを動かすことに徹して、そこに現れる出来事に手に汗握ったりショックを受けたりし、選手のその後なんかまで妄想している。前半はヘンリー・ダーガーのゲーム版みたいな印象だった。
 それが怪しくなってくるのは、あらすじに書かれた大事件が出来したあたりからなんだけど、サイコロの出目がえらいことになり、その事件が起こる。ヘンリーは大きなショックを受け、なんとかゲーム内の事態をまともなものに戻そうとするのだが、サイコロがまったく言うことを聞いてくれず、ゲームの続行を躊躇するまでになってしまうって流れになる。ここでようやく、ヘンリーはダーガーみたいな狂気の作者として描かれているのではなくて、神さまとして描かれているんだなと納得がいった。つまり本書は、神さまがサイコロ遊びをする話なんだ。でもって、サイコロにやられまくる神さま。
 この世界を創った神さまが仮にいたとして、サイコロ転がして歴史を決めてたら、やっぱりこんな風な展開が起きて、苦悶したかもしれないし、サイコロ転がして歴史を進める時間があるなら、神さまは神さまの世界じゃ、うだつが上がらないのかもしれないって思いつきがばっちり物語化されていて、感心した。
 何より、これも途中から気づいたんだけど、この本はとっても訳文がいい。すっごい読みやすい。登場人物がメチャクチャ多いので、わかりにくいと感じるくだりはあるけど、それはあくまで内容の話で、文章がわかりにくい(ってのは、半分くらいリズムが悪いってことなんじゃないかと思うのだけど、それもひっくるめて)と思う箇所も、文章が変に間延びしてるところもほぼ皆無だった。
 ちょうど白水社から復刊されているので、読者が増えるといいなあと思った。同じ作者・訳者のコンビで『ジェラルドのパーティー』って本が出てて、表紙は見た覚えがあるんだけど、とっくに品切れらしい。買っておけばよかったなあ。

ユニヴァーサル野球協会 (白水Uブックス)
ロバート クーヴァー 越川 芳明

4560071896
白水社 2014-01-18
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