『仮題・中学殺人事件』

仮題・中学殺人事件 (創元推理文庫)
辻 真先
4488405134

 本作の犯人は読者である。以前読んだ「天使の殺人(感想)」がとても面白かったので、これはどう処理するのだろうと思い、読んでみた。
 桂真佐喜の解説によると、本作は初出は昭和47(1972)年の1月、朝日ソノラマの「サンヤングシリーズ」の一冊として刊行された。他に同シリーズとして「ブンンとフン(感想)」「怪人オヨヨ大統領」などがあったらしい。
 当時中高生を対象とした国産の小説本は皆無だったという記述にまず驚く。そしてその状況を受けて、辻の語った「大人は若い者が活字に親しもうとしないと言うが、少年少女向きの力作がない状況で、何を読めと言うんだ!」という台詞に、辻真先の執筆動機が見て取れるように思う。「天使の殺人」にしても本作にしても、難しく書けばいくらでも難しく書けるのを、どこまで簡単に書けるかに挑戦しているように感じられる。それは多分、上の台詞が根本にあったからなんだろう。
 と言いながら、こっから書くことは作者が見たりしたら、がっかりするかもしれないのだが、ぼくは20代も後半になって本作を読んで思ったことは、もし自分が中学時代にこれを読んだら、それほど面白いと思わなかっただろうということだった。同年代として考えたなら、こんな奴らがいると思えなかったためだ。
 ところが登場人物たちから年が離れた今になると、言葉遣いの違いにも気にならず、逆に「こういう連中がいたら楽しいだろう」とか思ってしまうわけで、それはつまりぼくの中に幻想の中学生を住ませることができるほど、当時から隔たったということなんだろう。そのせいか、どのキャラクターも健気で健気で、涙腺がゆるみそうになった。
 というわけで実に面白かった。
2004年05月04日

追記2016/02/15キンドル版が出ていた。確認時の価格は540円。
仮題・中学殺人事件 (ポテトとスーパー) (創元推理文庫)
辻 真先

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