キリコ・薩次の「幻想的赤川論」

三毛猫ホームズと仲間たち―新・赤川次郎読本
赤川 次郎

405105067X
学習研究社 1990-07
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by G-Toolsisbn:405105067X
部屋の片付けをしていたら「三毛猫ホームズと仲間たち」っつー本が出てきた。辻真先が「赤川次郎読本」で薩次の卒論と称した赤川次郎論を書いているという話を知っていたので、もしやこれか? と目次を開いてみたところ、この「幻想的赤川論」を発見*1。読んでみることにする。卒論の梗概も載っていた。貴重なのは辻真先が90年までに書いた赤川次郎作品の解説が一覧できるところ。「盗みは人のためならず」「青春共和国」「静かなる良人」「三毛猫ホームズの騎士道」の四冊だということ*2
 それらと中身を被らせないで新しい切口を示さなくちゃならないと頭を捻っている薩次の元にキリコがやってきて、あれこれ議論するという形で本作は進行する。
 とりあげる作品は「角に建った家」と「夢から醒めた夢」。この二作をファンタジーだととらえた上で、薩次はそれらの読後感が、他の赤川ミステリー作品と驚くほど似ていると指摘する。そこから導き出される結論は、

赤川次郎がファンタジーを書いた。それについてなんの違和感もないのは、ふだん彼が書いているミステリーが、そもそも一種のファンタジー(原文傍点)だったからではないか。

 というもの。15年経って読むと、驚くような指摘ではないと思うが、90年当時の通年がまだ色濃く社会派推理のイメージをとどめていたことが窺えて興味深い。
 それはそうと、本作では一箇所、改行なしどころか同じカギ括弧内で話者が入れ替わるという豪快なミスがあった。文庫版では直っているのだろうか。まあ確かにふたりは一心同体みたいなものなんですが。

*1:ただし薩次の卒論を収めた赤川次郎読本の続編で、しかも出版社が違う。タイトルの上に「新・赤川次郎読本」って書いてあった。

*2:で、本棚を見たら三毛猫ホームズの騎士道があったので、開けてみたら違う人が解説を書いていた。なんでじゃ? と調べてみたところ、手元の作品は角川文庫版で、もともとは光文社から出た作品だと注意書きがされていた。光文社版が辻真先解説のようだ。