芹沢一也『狂気と犯罪 なぜ日本は世界一の精神病国家になったのか』

狂気と犯罪 (講談社+α新書)
芹沢 一也

4062722984
講談社 2005-01-21
売り上げランキング : 487393

Amazonで詳しく見る
by G-Toolsisbn:4062722984
 明治から平成にいたる精神障害者の扱われ方の歴史。エキサイトのインタビューを読んで購入した。日本に輸入された精神医学がどのようにして力を持つに至ったが書かれている。それによると、狂気と犯罪を結びつけ社会不安を煽ったのが実は精神科医たちだったらしい。当時の論文などが引用されていて、なるほどと思わせる。つまり奴らは自分たちで煽るだけ煽り、自らの地位を確立したあとは精神病患者に対する偏見を批判するようになったみたいなのである。悪質リフォーム業者みたいだ。
 ただ困ったことには、大事なところでソースを明示してくれないところ。たとえば次の件り。

通報を受けた保健所は、警察官の報告を自治体に連絡する。そして、鑑定医による措置診察が命じられ、診察の結果、精神障害だと判断されると、そのまま精神病院に強制入院となるのである。このとき鑑定にかけられる時間は、せいぜい二時間だという。
(略)
では、逮捕されて検察庁に送られた場合はどうか。
そこでも精神科の入院歴があったり、調書の内容や態度から精神障害が疑われたとき、検察官の判断によって精神鑑定が行われる。この際、検察は「責任能力なし」と診断してくれる精神科医に依頼するという。しかも、鑑定時間はせいぜい十分程度、中には直接面接することなく、警察の調所だけで報告書を書く医師もいるという。

措置入院を喜んで受け入れるのは、宇都宮病院のような劣悪で暴力的な施設だけであり、そうした病院ではしばしば不祥事が起こる。

 どちらの引用部分もソースが明示されていない。この記述は精神科医や検察官に対してかなり失礼な書き方がされている。書く以上は論拠を示さなければ、アンフェアだし、説得力を著しく失わせる。引用を明示しているところとしていないところがあることが恣意性を意識させてしまうからだ*1
 そんなわけで精神科医がどうやって社会的ステータスを築いてきたかという部分は面白かったけれども、全体としては期待値に届かなかった。

関連:
芹沢一也インタビュー(エキサイトブックス
第1回 精神病院大国、ニッポンと刑法39条/第2回 精神医学は「狂気」排除のシステム形成に加担してきた/第3回 言説分析とは完成図のないジグソーバズルを作ること/第4回 少年法の改正は、統計的な事実に由るものではない

*1:もし新書だから煩雑さを避けたというなら、煩雑さの意味を取り違えている。引用箇所は絶対にソースの明示が必要だし、それがなければ「研究」なんてしている時間のない一般読者は何を調べれば言っていることが正しいかそうでないかの判断ができるのか分からない。その作業の方がよほど煩雑だ。