『私のハートに、あなたのメスを』

私のハートに、あなたのメスを (角川文庫)
辻 真先

4041659019
角川書店 1986-07
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 実は一年前に読んだもの。現在は角川の電子ブックで読むことが出来る。こちら
 わざわざ感想を載せるつもりになったのは、辻先生の本作へのコメントが変わっていたから。以前は「二十年くらい経つと褒める人が出てくるので、良かったら読んでね」みたいなことが書いてあったのに、最近の更新では

どちらもよくいえば異色作だが、わるくいえば……いや、自分で自分の悪口は控えておこう。気になる人はどうぞ購入してください。

http://homepage2.nifty.com/M-TSUJI/sakusaku/5_1.htm

 となぜか弱気に。一年前に読んだものだから断言しきれないけれど、割と面白かった印象が残っている。というわけで今更アップ。こんな話。

 うぬぼれ屋の東西大学の東学長は、婦女暴行常習犯ではないのだが、男好きのする女子大生の久米志摩子が自分に惚れていると錯覚し、絞め殺してしまった。さあ、大変! 日本医者会の会長選挙を来月にひかえ、5人のおべんちゃら学長派の教授たちは志摩子の死体隠しに余念がない。ところが、デキの悪い学生、岩手軍太にだけは艶っぽい幽霊になった志摩子の姿が見える。幽霊に一目惚れした軍太たちの志摩子救出と復讐の奇妙な騒動が始まった。

 秀介ファイルシリーズのヒーロー、東秀介の家庭教師(実際は勉強を教えてもらっているんだが)、岩手軍太が主人公。
 東西大学が経堂に設定されているせいで、成城やら祖師谷大蔵やらが出てくる。成城のミスドとケンタはかなり昔からあるのが分かった。
 ところで、この記事を書くのに一年前のローカルの読書記録を読み直して思い出したのだけど、この話にはしょうもない小悪党がわさわさ出てくる。その中のひとりに塔吉ってのがいて、途中で死んじゃって幽霊になる。そいつが幽霊になったときに心配するのが自分の飼い犬であるってくだりが非常に良かった。別に書き込まれてるわけじゃなくて、そこがメインテーマでもなくて、さらりと出されるんだけど、この場面一つでそれまでただの脇役だった塔吉が血の通った人間になったように思えた。
 ラストはちょっと不満が残るっていうか、説明不足が否めないんだけど、この塔吉と中盤、岩手軍太が悪役たちを罠にかける(わざと自分を殺させるってんだから驚きだ)展開はキレていたと思う。全体的にはご本人の仰ったとおり面白かった。
 なお消えてしまった更新分の情報によると、辻作品にはおなじみの東西大学は本作が初出とのこと。