有栖川有栖『女王国の城(上)(下)』

ちょっと遠出するかもしれん。そう言ってキャンパスに姿を見せなくなった、われら英都大学推理小説研究会の部長、江神さん。向かった先は〈女王〉が統べる聖地らしい。場所が場所だけに心配が募る。週刊誌の記事で下調べをし、借りた車で駆けつける――奇しくも半年前と同じ図式で、僕たちは神倉に〈入国〉を果たした。部長はここにいるのだろうか、いるとしたらどんな理由で?

 月光ゲーム・孤島パズル・双頭の悪魔に続くシリーズ第4弾。一応ここまではすべて読んでいるものの、すべては遠い霧の中状態で欠片も憶えていないし、有栖川有栖はこれまで読んだ作品で諸手を挙げて大喜びみたいなこともなかったので、あまり期待せずに読み始めた。案の定、初っぱなで躓く。28歳の良い大人がちょっと姿を見せなくなっただけで、行き先を推理し、レンタカーを借りて乗り込んでいく主要キャラクターたちの行動が理解できない。やたら「大変なことになっているぞ」という前提のもとに動く連中の危機感にまるで乗れず、100ページいったところで「あと何ページあんだこの与太話」と思っていた。要するに特殊な環境に放り込む理由が欲しいんだろうけど、それにしたってさ、はいはい、過去の不可思議な事件ですが、それより現在の事件はまだですか……と、ちょっととほほになりつつ、読み進め、200ページを過ぎてようやく一つ目の死体登場。ダイイングメッセージとビデオテープの持ち出しですね、ふむふむ、おお、なんか連中が期待通りの怪しい動きを開始しましたね、で、上巻終了下巻へ。無駄っぽいアクションとかが挟まって、はてさてふむふむ。
 そして下巻の317ページ。

読者への挑戦状

……本格ミステリとは〈最善を尽くした探偵〉の記録だ。江神次郎の推理こそ、この物語を完結させる唯一の解答である。
 ご安心いただくために、威勢よく言い直そう。
 論理の糸の一端は読者の眼前にあり、それを手繰った先に、犯人は独りで立っている。作者が求める解答は、その名前と推理の過程だ。

 こっからがものすっげー面白かった。長すぎるとか思ってごめんなさい。誰が誰やらわからんとか思ってごめんなさい。あれやこれや繋がって、犯人を絞り込む見事さと来たら悶えるほどで、全体の絵が開示されていくその手順と出てきた全体の姿に、「ひやっほう!」と叫び声を上げそうになった。心内文的には絶叫していた。いやあ出だしで放り出さなくてよかった。初めて有栖川有栖の小説読んで、心底面白いと思ったよ。
 俺と同じく有栖川有栖に苦手意識のある人でもこれならきっと満足感高いと思う。たしかに長いけれども、読了したときの気分は格別だ。はあ、幸せな読書をしたわあ。

女王国の城 上 (創元推理文庫)
有栖川 有栖

4488414052
東京創元社 2011-01-26
売り上げランキング : 599


asin:4488414052
Amazonで詳しく見る
by G-Tools

女王国の城 下 (創元推理文庫)
有栖川 有栖

4488414060
東京創元社 2011-01-27
売り上げランキング : 577


asin:4488414060
Amazonで詳しく見る
by G-Tools