長山靖生『日露戦争 もうひとつの「物語」』

日露戦争―もうひとつの「物語」 (新潮新書)
長山 靖生

4106100495
新潮社 2004-01
売り上げランキング : 374272

Amazonで詳しく見る
by G-Toolsasin:4106100495

開国から五十年後の1904(明治三十七)年、近代化の節目に起きた日露戦争は、国家のイメージ戦略が重んじられ、報道が世論形成に大きな役割を果たした、きわめて現代的な戦争だった。政府は「正しい」戦争の宣伝に腐心し、新聞は開戦を煽った。国民は美談に涙し、戦争小説に熱狂した。大国ロシアとの戦争に、国家と国民は何を見て、何を考え、どう行動したのか?さまざまな「物語」を通して、日露戦争をとらえ直す。
(「BOOK」データベースより)

 という内容の本。著者の長山 靖生が興味を持っているのは、日露戦争の意味ではなく、そこでどのような物語が生成、捏造され、どう消費されたかという点。それはいま現在の状況がどんな物語を求め、どんな物語を消費しつつあるのか、ということも暗に語っている。興味深かったのは反戦を主張する新聞や文化人が当時、弾圧を受けた様子があまりないところ。それにも関わらず、各紙は戦争に反対することもなかった。なぜか? そうしなければ読者を獲得できなかったからだ。本書中、もっとも鋭い指摘はここにある。新聞(メディア)は大衆を扇動するが、それは大衆にコントロールされた結果だ。オーウェルが書く象殺しの話のように。
 というのとは別に面白かった点がふたつ。ひとつは日露戦争当時、漢詩が非常に盛んになったという指摘。戦争を描写するのに、それまでの日本語が見合ったものと判断されなかったらしい。日露戦争はそれまでの戦争と規模が違っていたからだ。この辺、笠井潔の大量死史観と併せて見るとなかなか興味深い。探偵小説論の説得力は日露戦争当時、探偵小説の流行がなかったことを説明できなければいまいちに止まらざるを得ない気がする。
 もうひとつは日露戦争が有色人種による白人への最初の勝利で、それに衝撃を受けたジェームズ・チャーチワードが日本人には白人の血が混じっているという論を立てたという話。ムー大陸の捏造に日露戦争が絡んでいたとは……。

追記2015/03/01キンドル版が出ていた。確認時の価格は600円。
日露戦争―もうひとつの「物語」―(新潮新書)
長山 靖生

B0099FIVCG
新潮社 2003-12-31
売り上げランキング : 96264

Amazonで詳しく見る
by G-Toolsasin:B0099FIVCG