廣野由美子『視線は人を殺すか―小説論11講』

視線は人を殺すか―小説論11講 (MINERVA歴史・文化ライブラリー)
廣野 由美子

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ミネルヴァ書房 2008-01
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 視線の描写に注目した小論文集……かな。まえがきによる自己紹介はこんな感じ。

 以下の本論では、視線の動きや性質の種類という観点から一一の項目に分け、各章で具体的な小説作品の例を挙げながら考察を進める。それによって、視線のメカニズムや力学が、次第に明らかになってゆくであろう。そのとき、小説がいかに人間を描くうえで、豊かな可能性を秘めた芸術形式であるかということも、再確認できると思う。

 そんでもって目次。

 あとがきによると当初予定された表題は『「視線」の小説論――物語論で読み解く小説の戦略』だったそうな。内容的にはこっちのほうがわかりやすい。『批評理論入門(感想)』が面白かったから買った本だと思う(出てすぐ買ったのに、そのまま本棚にしまわれ、数日前まで長い眠りについていたので、何を求めて購入したかはもはや推測するしかないのである)のだけど、期待値が高すぎたかも。
 この空振り感がどこから来るのか考えてみると、『批評理論入門』は、「それを使うとどんな景色が見えてくるの?」的謎を、『フランケンシュタイン』一作で展開したので、「おおっ!」があったのに対して、本書は謎かけの部分が弱いような気がした。ついでに「視線のメカニズムや力学が、次第に明らかになってゆく」という予告を、本書の構成は実現しているのかというところにも疑問がある。どちらかといえば、小説における視線のさまざまな機能を列挙した感じに思えるんだよね。なので、「次第に明らかに」って印象は薄かった。各章を完全に独立させて考えれば、面白いなあと思うところもあったし、これ読んでみたいと思う紹介になってる部分もある(とりわけ『地獄』はとても面白そうだった)のだけれども、全体の形がぼんやりしてたのが残念だった。