視線は人を殺すか―小説論11講 (MINERVA歴史・文化ライブラリー)
廣野 由美子
ミネルヴァ書房 2008-01
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視線の描写に注目した小論文集……かな。まえがきによる自己紹介はこんな感じ。
以下の本論では、視線の動きや性質の種類という観点から一一の項目に分け、各章で具体的な小説作品の例を挙げながら考察を進める。それによって、視線のメカニズムや力学が、次第に明らかになってゆくであろう。そのとき、小説がいかに人間を描くうえで、豊かな可能性を秘めた芸術形式であるかということも、再確認できると思う。
そんでもって目次。
- はじめに 視線とは何か/語りの分析
- 第一章 恋を見破る
- 第二章 誘発する視線
- 第三章 結晶作用
- オースティン『高慢と偏見』――肖像画の視線/誤解の氷解
- ジョージ・エリオット『ミドルマーチ』――恋に落ちたリドゲイト
- 第四章 離反作用
- サッカレー『虚栄の市』――恋から覚める
- アーノルド・ベネット『老妻物語』――若き日と老いし日の幻滅
- 第五章 一方通行の視線
- シャーロット・ブロンテ『ヴィレット』――屈折した語り/「取るに足りない人(ノーボディ)」の視線
- 第六章 覗き見
- メアリ・シェリー『フランケンシュタイン』――怪物の視線
- トマス・ハーディ『狂乱の群れをはなれて』――性的視線/夫が妻を覗き見る
- アンリ・バルビュス『地獄』――神か悪魔か
- 第七章 脅かす視線
- 第八章 錯覚
- オースティン『エマ』――心理的な錯覚
- ジョージ・エリオット『サイラス・マーナー』――錯覚がもたらした啓示
- フィッツジェラルド『グレート・ギャツビー』――錯覚の悲劇
- 第九章 遮断された視線
- 第一〇章 子供の視線
- ディケンズ『大いなる遺産』――子供の視覚/お伽噺のヴィジョン
- ヘンリー・ジェイムズ『メイジーの知ったこと』――子供の目に映る大人の世界
- 第一一章 視線のミステリー
- ポー『盗まれた手紙』――視線の盲点
- コーネル・ウールリッチ『裏窓』――推理する視線
- アガサ・クリスティー『鏡は横にひび割れて』――視線の行方
- 石沢栄太郎『視線』――視線による殺人
- おわりに 視線は人を殺すか/視線は物語を生みだす
- 参考文献
- あとがき
あとがきによると当初予定された表題は『「視線」の小説論――物語論で読み解く小説の戦略』だったそうな。内容的にはこっちのほうがわかりやすい。『批評理論入門(感想)』が面白かったから買った本だと思う(出てすぐ買ったのに、そのまま本棚にしまわれ、数日前まで長い眠りについていたので、何を求めて購入したかはもはや推測するしかないのである)のだけど、期待値が高すぎたかも。
この空振り感がどこから来るのか考えてみると、『批評理論入門』は、「それを使うとどんな景色が見えてくるの?」的謎を、『フランケンシュタイン』一作で展開したので、「おおっ!」があったのに対して、本書は謎かけの部分が弱いような気がした。ついでに「視線のメカニズムや力学が、次第に明らかになってゆく」という予告を、本書の構成は実現しているのかというところにも疑問がある。どちらかといえば、小説における視線のさまざまな機能を列挙した感じに思えるんだよね。なので、「次第に明らかに」って印象は薄かった。各章を完全に独立させて考えれば、面白いなあと思うところもあったし、これ読んでみたいと思う紹介になってる部分もある(とりわけ『地獄』はとても面白そうだった)のだけれども、全体の形がぼんやりしてたのが残念だった。