『平和な殺人者』

平和な殺人者 (カッパ・ノベルス)
辻 真先

4334073484
光文社 1999-07
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by G-Toolsisbn:4334073484
『平和な殺人者』を読んだ。昭和二十五年名古屋で起きた怪談混じりの連続殺人事件と実にじれったい高校生の恋模様。建物が消えたり天井から血が滴ったりのっぺらぼうが現れたりする。主人公の那智聡がお父さんと話しているところは「急行エトロフ殺人事件」(感想)の牧親子を連想させた。
 主人公の那智くんが「この夜に不思議なことなんてない」と言うところやトリックを説明するのに「祓いに行こう」というところはやっぱり京極の影響ですかね。
 作者自身「読後感が良い」と言うように、戦争の暗い影をバックにした物語にしては、というよりも辻真先作品にしては読後感は悪くない。ただし全編哀しいお話だ。何より悲しいのは発売五年でもう絶版。ぱっと見他の作品と繋がってないみたいだし(刑事の三輪とか新聞記者の藤田とかはもしかすると他の作品に出ているかも知れないけど)、どんでん返しもあるし、辻真先入門には良い作品だと思うんだけどなあ。
 知らなかったこと

  • 戦中映画館は男女で座る席が別れていて、真ん中に憲兵が立っていたらしい。いつからのことだろうか。谷崎の「白昼鬼語」(感想)では映画館で隣り合った男女が密談する場面があったはずなので、本当に戦争直前からそうなったのかな。

 追記:映画館の件に関して祖父に尋ねたところ、「そんなことあったかなあ」と言われた。地域限定(名古屋だけとか)の話なのかもしれない。