『殺しはレールに乗って』

殺しはレールに乗って (双葉文庫)
辻 真先

457550159X
双葉社 1987-12
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by G-Toolsisbn:457550159X
路面電車の走っている場所」というくくりで場面を結んだ連続殺人事件。速見讓という男の子を火事から助けた「誰か」が、そのとき讓から受け取った「何か」が事件の鍵になる。「誰か」は誰で「何か」は何なのか? イベント・キャスター葉月麻子が事件に挑む。
 って感じのお話。路面電車の走る町を結ぶために使われる小道具は新幹線。特に上野駅は新幹線開通がこの年(1985年)の3月だったこともあり、念入りに描写されている。電話をかける場面では4月に電電公社から名を変えたNTTがさりげなく登場。
 途中、葉月麻子が「ちょっとそこまで」って感じに新幹線に乗り、広島まででかけていく場面がある。ちょうどこの年、うちは親父が広島に住んでいたので、俺も新幹線を使って広島まででかけたなあなんてことを思い出した。5時間くらいかかったこととトンネルばかり走っていたことしか憶えていないんだけど。
 んで広島の事件の現場は「井口センター前」ってとこで起きたのだが、宮島線の路線図を調べてみると、現在その駅はなかった。ついでに調べてみたら、当時時々遊びに行ったナタリーという遊園地も1996年の3月に潰れていた。パットパットゴルフ、巨大迷路、ミラーハウス、本格的なゴーカートなど、色々楽しかったのに残念だ。現在「競艇場前」という名前になっている駅の側だった気がする。当時は駅名も違ったような。
 一方、当時よくいった近所のスーパースパークは頑張っていてなぜかホッとする。
 読み終わってから、荒川線の扱いが小さいことに気付いた。あれも路面電車だよな。
 ところで作者は登場人物の筆を借りて、

エンタテインメントは、これでいいのだ、出し惜しみをしてはいけない。天才ならいざ知らず鈍才のおれに出来ることといえば、下手な鉄砲も数打ちゃ当たる、見栄も外聞もなく読者の前で思いつくかぎりのお話をならべたてる以外、能があるまい。

 と言っている。本作はまさにそのとおりの作品で、一個一個の事件も割と適当だし、採用されたトリックもうらなされるようなものでもなく、解決編はとってつけたようだ。
 が、思いつきを並び立ててくれたおかげで、当時の社会問題だった「いじめ」に対する語り方が分かって個人的には興味深かった。今と全然変わらない。ということは今「昔のいじめは、現在のように陰湿でなかった」という言い方は、本当だとしても昔じゃなく大昔に訂正しなけりゃならんだろ、やっぱり。
 んでもって、この作品で仕掛けられる騙しの方法は、読んでいて「ひっかかるわけねーだろ」といいたくなるようなものばかりだったのだが、落ち着いて考えると、オレオレ詐欺とほとんど変わらないわけで、案外有功かもしれないと思った。説得力というのは、実際に有功かどうかとは別の基準で感じられるもののようだ。
 あと解説が何度も「ケアフル・ミス」という単語を使っているのが気になった。しかもそれを使って作家のケアレス・ミスをあげつらっているのだがら笑えない。

追記2015/06/20キンドル版が出ていた。確認時の価格は400円。
殺しはレールに乗って (双葉文庫)
辻 真先

B009GWUEWM
双葉社 1987-11-30
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