島田荘司『占星術殺人事件』

占星術殺人事件 (講談社文庫)
島田 荘司

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講談社 1987-07
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 1981年刊行作品。ということは文庫化するまでに六年かかっているのか? ちょっと意外だ。と思って島田荘司全作品・出版総合データベースを見てみたら、1985年に講談社ノベルス版が出ていた。うかつにもノベルス落ちを考えなかった。納得。
 ウィキペディアを見てみたら、本作品は乱歩賞候補作品だったというので、その年何が獲っていたのかしらんと乱歩賞の歴代受賞作リストを見てみたら「猿丸幻視行」だった。へえ、そうだったんだ。

 これは私の知る限り、最も不思議な事件だ。おそらく世界にもまずめったに例を見ない不可能犯罪であろうと思う。

 という書き出しで始められる460ページ、皆さん御存じの有名作品。しかし俺は初めて読んだ。十年くらい前に読もうとして会話の場面で、誰の台詞か分からなくなって挫折して以来の挑戦。今回はなんとか最後まで辿り着いた。ついでに作品内で言及された松本清張の短編も読んだ*1。有名作品なのでメイン・トリックは知っていたが、思ったよりも楽しく読めた。特に御手洗が真相を看破するする瞬間が笑えた。両手を握りしめて大声で吠えてから、ダッシュで走り回り、回りの人がびびって逃げだし、犬も逃げる。ワトソン役の石岡は御手洗が狂ったと追いかける。唐突に立ち止まった御手洗は石岡に、

「僕は実に馬鹿だった!」
 とわめいた。そりゃあ実に同感だ、と私は思った。

 この地の文は他の人なら書けないのではないかと思った。
 もちろん出だしのハッタリ(2.26事件の朝に発生し、四十年間日本中の素人探偵が挑み続けて誰も解けなかった謎の事件という設定と残された手記のオカルトめいた匂い)や、仮説を作る→壊すを繰り返すところなんかにも感心したんだけど、この場面のインパクトが一番強かった。
 粗を探すなら溜め込まれた怒りを文章のパワーに落とし込むことがいまいちできていないように感じられるところだろうか。僅かばかり読んだ他の島田荘司作品と較べると、髪の毛引っ摑んで読者を引きずり回すような力が弱いし、作者の凡人への怒りが他の部分から浮遊しているような気がした。
 そういえば作中に明治村が出てきて、なんかの作品で読んだ記憶があったので過去ログを調べてみたがその単語がひっかからず。どうやら他のものを勘違いしていたらしい。

*1:与太話を思いついた清張がなんとか与太を発表しようと頑張った、みたいな話だった。