バック・トゥ・ザ・フューチャー三部作

 マイナス・ゼロの感想を書くときに三部作がセットになったDVDがえらい安いことを知ったので買ってみた。

バック・トゥ・ザ・フューチャー

 んで一本目を見直した。
 中三くらいのときに、LDを買って飽きるほど見たのだが、改めて見直すとまたまた面白くて驚く。緻密な構成と何個も出てくる目標、そしてそれがまとまって解決されていくラストは圧巻。タスクの解決と新たなタスクの発生が目まぐるしく展開して雪崩れ込むようなラストへ、そして新たなタスクが提示されて続編へ。

 今回見直して思ったことは、あんまり指摘されていない気がするというか、俺は聞いたことがないのだが、これもやっぱりマッチョを必要とした時代の作品なんだなあということ。今まで気付いていなかったのだが、マクフライ家の最初の景気の悪い感じと、最後のイケイケな感じを分けた原因は父親がビフをぶっ飛ばしたかどうかで決まっているわけで、今までは「勇気を出したから幸せに」という感じで眺めていたのだけど、「父親が男らしく振る舞えば、家庭円満」というメッセージでもあったのだなと感じた。脚本が書き出されたのは80年頃だったそうで、強いアメリカを理念にロナルド・レーガンが大統領の道を歩んでいた頃のことだ。スタローンみたいな分かりやすいマッチョではなかったけれど、ここにも確かに男のステレオタイプみたいなものが潜んでいる。

 強さを理念にしようとするブッシュ政権下のアメリカでスターウォーズを皮切りにロッキーやランボー、それからインディ・ジョーンズなんかがリメイクされ、本シリーズの第四作も企画に上がったらしい*1けれど、これらにはたぶん一本のつながりがあったんだろう。アメリカ的男の行動様式、みたいなものが。

 それはさておき、クライマックス近くのドクが事務的な台詞に終始することでマーティとの別れの悲しさを耐えようとするところが泣ける。親父が覗き魔だったのを知るシーンも別な意味泣ける。しかし一番泣けるのは、「未来の僕がどうしてるか見てきてよ」という台詞だ。まだ1985年から三十年経っていないけれど、この台詞を言ったマイケル・J・フォックスは現在パーキンソン氏病の闘病中。2015年までには、治療法が確立して、幸せな暮らしをしていることを望む。それから今ウィキペディアで調べて、ドクをやっていたクリストファー・ロイドも生きていることを知る。安心した。長生きして欲しい。

 次は2。実はこれだけ見たことがないので、どんななのか楽しみなのだった。なぜ見たことがないのか、自分でも不思議なんだけど。

バック・トゥ・ザ・フューチャー2

 ということで生まれて初めて2を見た。未来に行って息子のトラブルを解決したり、欲の皮がつっぱったせいでとんでもないことになっちゃったり。
 1と比べると目標設定がシンプル、話の流れもシンプルなので、いささか物足りなくはあるけれど、いろいろと面白かった。本作の未来予測では靴は足にフィットするように自動調整ができ、服は喋る。弁護士制度は廃止。エアカーは未来のシンボルだからどうってことはないが、それ以外のものもあと数年で実現はしないだろうなあ。ナイキが根性だして「2015年に間に合いました」って、ワンプッシュオートアジャスター機能付シューズを出してくれないだろうか。その一方で音声入力によるテレビのチャンネル切り替えだとか、画面を分割した多チャンネル方式だとかは当たっているといえば当たっている。やっぱり慣れ親しんだ世界のことは妥当な予測ができるのだろうか。もちろんテレビ電話はあったけれども、携帯電話の姿は見あたらず。
 ちょっとウケたのが、80年代を懐かしむカフェにおいてあったのが、「ワイルド・ガンマン」だったこと。ファミコン版やったよと、懐かしい気持ちになった。
 ウィキペディアによれば、そのゲーム機で遊んでいたのは、イライジャ・ウッドなんだそうな。
 と、まずは設定に目が行ってしまったが、それ以外にも、ビフ役のトマス・F・ウィルソンの演技が、特に2015年の場面では、突き抜けちゃって、悪役の筈なのにすがすがしいほどだったのが収穫。
 あとホバーボードがイメージと違って、案外爽快感のない乗り物であるのが意外だった。
 後半は変わってしまった1985年をなんとかするため、再び1955年に戻る展開で、単品としてみると、どうにもスケールダウンした話なのは否めないが、そう思う一端はこの作品が1の物語の厚さを増すのに奉仕してしまうからだろう。ダンスパーティーの裏で行われていた攻防を知った後では、1のシーンはますます重層性を獲得して、見るものの頭の中で、公開当初よりも作り込まれたものに映るだろう。たぶん2はトリロジーという枠組みで考えると、縁の下の力持ちという役割を担っているのだ。そのためか、はたまた他の事情からかは分からないが、本作でもっとも掘り下げられているのはビフである。前作ではただの悪役に過ぎなかったのだが、本作ではたとえば両親がいないことが臭わされたり、実は一途なところがあるのが分かったりする。変わった未来では大金持ちなのに、三人の連れ子のいるロレインと結婚しているのだ。見方を変えれば奴はは純愛片思いストーリーの主人公だったのだし、あるいはこのシリーズ全部が、ジョージ(息子のマーティが代理)、ロレイン、ビフの三角関係の変奏曲と呼べないこともない。ジョージとビフにとって求められる未来は、ロレインを手に入れた未来で、そうでない未来は、買える必要のある未来ということになる。我々はマーティの視点に立って作品を見るから、ビフの勝っている未来は変える必要があるという気がするけれど、そもそもすげーズルをして、未来を変えたのはマクフライ家の方が先立ったわけだから、一概にビフが悪いとは言い切れない。
 なぜそんなにロレインが魅力的なのか、いまいちピンとこないので、よく分からないが、ふたりにとって、ロレインは何を措いても手に入れたい宝であるらしい。
 ここで1を思い出すと、ジョージがロレインに執着するようになるのは、そうなってくれないと自分が生まれてこないことになるマーティがジョージに洗脳かけたからなわけで、むしろビフの方が純粋っちゃー純粋なんではなかろうか。

 んでもって、シリーズを通してみると、凄くリアルだと思うのが、どの作品でも繰り返される追いかけっこのシーンで、時代が変わることで使うツールが変わっても、結局人間は同じ事をしているんだという制作者側の世界観が窺えて、なかなか興味深かった。
 興味深いと言えば、強さを持たなければいけないというメッセージが見えた前作に対して、2には「冷静さを失ってはいけない」というテーマが打ち出されていた。天安門事件やら冷戦終結やらがあった年の空気が影響してるんじゃないかなと思った。

 さて、次は3を見よう。これも映画館で見て以来なので、非常に楽しみだ。

バック・トゥ・ザ・フューチャー3

 トリロジーの最後を飾る本作で中心となるのはドクことエメット・ブラウンと、彼が命を救ってしまった女教師クララ・クレイトンのラブストーリー。実に懐かしい。俺は中学生の時に、これを映画館で見た。そしてそれは初めて映画館で見る外国映画だった。どんだけ面白かったことか! 誘われたときは「いや一つも見てねーし、面倒くせーし」と断ったのを無理矢理連れて行かれた藤沢の映画館。たまたま知っていた1のラストから始まって、インディアンの看板突き抜けてタイムトラベルしたら本物が前からやってくる! 洞窟見つけて隠れたら今度はクマがいた! ワオ!
 ってなかんじで二時間後映画館を出たときは誘ってきた友人がドン引きするほどハイテンションで家まで1時間歩いて帰り、弟に1時間かけてストーリーを全部話しと迷惑な興奮状態が結構な日数続いた。あんなに映画を満喫できたのは、そのあとでは「シックス・センス」と「少林サッカー」くらいじゃなかろうか。「告発」とかも面白かったけど。

 んで、そんだけ楽しかったものだから、見直すことが不安でもあったし、実際昔日の輝きの再現とはならなかったが、やっぱり水準は超えた作品だと思う。もっとも1と比べてはいけないんだろうけれど。

 改めて見て「ああ」と思ったのは、マーティのタイム・トラベルの理由。1885年にいるドクはそこでマッド・ドッグ・タネン(ビフの先祖)によって撃ち殺されている。マーティは「ぼくが助けに行く」と言って、最後のタイム・トラベルへと向かう。シリーズの導き手であるドク、物語用語ではメンターになるドクを助けるために動くことで、マーティの成長が表現されている。だから3では、マーティがドクに説教する場面なんかもあって、そこが面白かった。
 あと、ダンス・パーティのシーンの音楽が軽快で素晴らしかった。
 気になるのは、タネンの人生が豪快に変わってしまったにも関わらず、それが未来に影響を与えていないところ。本来なら、また別の未来になるのではないかと思うのだけれど、まあこれで完結だし、大目に見てねということなのかもしれない。
 まあ細かいことは気にせず楽しむというのが本道だろう。実際楽しかったし。
 そもそもこのシリーズのことを思い出したのは、小学生が好きな映画でこれを挙げていたからで、「おお、時代を超えた。なら見返しても面白いに違いない」と思ったのが、見直そうという切っ掛けになったのだった。今の小学生から見たら、お父さんがおじいちゃんの時代にタイムトラベルしましたって話になっていて、そうすると、また色々見え方も違ってくるんだろうな。
 トータルで約6時間あったわけだけれど、非常に幸せな時間が過ごせた。今度はコメンタリーつきのバージョンで見直してみようかな(あと6時間かかるんだけど)。最低1は見直そうと思う。いったい何回目になるか分からないけれど。とりあえず分かったことは、自分がこのシリーズをとても好きだということだ。買って良かったわあ。

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*1:公式には否定されているそうだ。