有栖川有栖 乱鴉の島

 有栖川有栖はこれまで「月光ゲーム」(誰が誰だかわからなかった)、「孤島パズル」(どんな話だか忘れた)「双頭の悪魔」(結構楽しかった印象が残っているだけ)「絶叫城殺人事件」(どんな話だったっけ?)の四冊を読んでいるだけで、どちらかというと苦手な作家。本書は2007本格ミステリベスト10の1位だったと新聞で見て、なら面白いのかなあと読んでみた。
 結果、やはり苦手だった。犯人の動機があんまりにも説得力がない。ほかの作家の作品の動機にも似たようなものがあったと記憶するけれど、果たしてそんなことで人を殺すんだろうか(殺すかも知れないけどさ)という気がする。
 しかしながら、作中にある人物の台詞として書かれた次の文には痺れた。

それが何なのか、俺はまだ知らない。しかし、開いた扉の向こうには、見たこともないものがあるだろう。

 物語を読んだり見たりする理由(に限らず、なんらかの「探求」へ赴く理由全般)をこんなにもコンパクトにまとめたフレーズはあまりないんじゃなかろうか。なんというか、「なぜ登るのか、そこに山があるからだ」を裏から映したような感じで、このフレーズだけずっしりとした手応えがあった。自分的には他の部分はすべておまけで、本書はこのフレーズを打ち出すためにあったのだと思いたい。ここだけは文句なしに素晴らしい。