Number 714 永久保存版引退記念特集 野茂英雄のすべて。

Numberが野茂の引退特集を組んでいたので、読んでみた。俺の同年代以上に彼が誰かを説明する必要なんてまるでない。しかしいまの二十歳前後には、もしかすると彼の偉大さは理解されていないかも知れない。というのも、野茂引退の話をしたときに20代前半の知り合いが「そんなに凄い人なんですか?」と言ってきたからだ。ちなみにそいつは割と野球ファン(すくなくとも俺よりは)だったので、なんというか、なんというか、すごく釈然としなかった。
 だからNumberが引退特集を組んだことは意義深い。本誌の中で室積光が「彼は確実に歴史上の人物だ。それも『日本プロ野球史』ではない。『日本史』のだ。」と「歴史に残る『偉大な野球部員』。」というエッセイで書いているが、そうなる過程では、この雑誌も貴重な史料となるだろう。
 もともと野球好きではない(何人かの選手に惹かれてで見ることはあるけれど)ので、本誌によって知るところも多かった。
 例えば渡米時の状況。そういえば大リーグはそのときストがあって、米国内での人気も低迷していたのだ。その人気回復の起爆剤となったのが日本からやって来た野茂だったという証言は、知ってる人には常識なのかも知れないが、日本からの目線でしか見てなかった俺には新鮮な指摘だった。
 この雑誌が素敵だと思ったのは、野茂引退特集である以上、野茂がどんだけ凄かったかということを伝えるのに、尽力するのは当たり前として、「野茂を巡る7つの証言」というコーナーで、近鉄時代の監督鈴木啓示の言葉を載せているところだ。行く方も聞かれる方も嫌だったろうなと思うし、避けようと思えばいくらでも避けられるのにあえてこの人選。素晴らしい。鈴木啓示にしても発言機会を与えられたのは良かったのではないかと思う。そもそも300勝もした投手に「こうでなければいけない」というスタイルがあるのは当たり前の話で、言った相手がたまたま野茂だったのが不運だったというだけなのではないかという気もする。鈴木の「良かれと思ってやったんやけどね」というのは本心だろう。「仰木は良かったけど鈴木は」という野茂を巡る話は、鈴木同様に野茂の真価(フォームだけじゃなくメジャー行きの決断をしたこととか)を叩いたマスメディアやそれを見て「そうだそうだ」と思った当時のファンの後ろめたさが語り継がせたことなのではなかろうか。
 この短い記事を載せたことで、この雑誌は他の引退記念特集(あるのかどうかしらないけど)とは一線を画したものになりえた。

 こんな特集が組まれるくらいだから野茂のことを語る人はいくらでもいる。記録もすごいし、インパクトだって凄かったのだから。残念なのは、熱く語る人々の口から「あの優勝したときの投球は」というフレーズが出てこないということだ。日米、どちらでも良かったから一度くらいはプロのチャンピオンチームに所属させてあげたかった。優勝を経験することよりもさらに確率の低いことを色々やってのけているのに、本人としても一番成し遂げたかったであろう目標は達成できなかったというところも、また野茂らしいと言えば言えるのかもしれないが。

Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2008年 10/30号 [雑誌]

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文藝春秋 2008-10-16
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