風の歌、星の口笛 (角川文庫 む 10-1)
村崎 友
角川書店 2007-10
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第24回横溝賞受賞作品。部屋から発掘。表紙がいい感じに見えたのと、帯に「横溝賞史上、最大のトリック」とあったので買ったのだと思う。帯の惹句はもう一行あるのだけど、それを読むとぼんやりストーリーラインがわかってしまうので、引用は控えとく。
で、あらすじ。
地質学者のジョーたちは、かつて地球人が建造した人工惑星プシュケを目指していた。だが、250年の時を経て辿り着いた彼らが見た光景は、砂漠化し、滅びてしまった星(プシュケ)だった。しかも、出口のない建物の中には天井に張りついた死体のような痕が…。プシュケは何故滅びてしまったのか? そして出口のない密室で何が起こったのか?
壮大なスケールのトリックと時空を超えた悲哀の物語を描き、ミステリ界を騒然とさせた第24回横溝正史ミステリ大賞受賞作。
と、あるのだけど、開巻劈頭登場するのは地質学者のジョーじゃなくて、トッド。すべてが〈マム〉によってコンピュータ管理された街で私立探偵を生業にしている男だ。いかにも物語の私立探偵らしく、仕事枯れで家賃を滞納している。そこに出入りしてる小娘のビビが、ロペット(リアルなAIBOみたいなもんだろ)のブルーが死んでしまったと言い出して物語が始まる。完璧なる〈マム〉の制作したロペットが死ぬなどあっていい話ではなかったが、ビビの友達のロペットまで死んでいることがわかり、何かおかしなことが起きているとトッドは考える。
と、ここで唐突に場面が変わり、宇宙船のなかになる。そして、上に引用したあらすじの登場人物ジョーとクレイン博士が登場し、プシュケへ行く理由(すでに死に瀕している地球の再生のヒントとするためのデータ収集)が語られ、密室が発見される。
そのあと、場面は地球に変わり、マツザキ・センマという人物を中心に話が進む。事故に遭い、やっと退院したその足で、恋人のスウにプロポーズしに行こうとしているところだが、スウの家には別の人物が住んでいて、首を傾げながら歩いているうち、スウのお母さんがベビーカーを押している姿を見かけ、声をかけるが、どうも話がかみあわない。
「(略)スウは、今日は? 仕事は休みですよね」
「スウって……」
お母さんは、いつのまにかベビーカーから赤ちゃんを取り上げて、自分の胸に抱いていた。そして、その赤ちゃんを僕の視線から守るように身体を向こう側に向けている。――この赤ちゃん、誰の子なんだろう? お母さんの? まさか。スウより三十近くも年下の妹だって? それに、人口増加抑止政策で、すでに二人の子供を産んだ母親は、三人目を産んではいけないことになっている。スウには、少し年の離れた弟がいる。
「その子、まさかスウの……」
なにも考えずに口に出してから、そんなバカな、と頭を振った。スウのお母さんが、後ずさりしながら言った。
「あなた、なんあんですか。スウはこの子です。おかしなこと言わないで。パトロールを呼びますよ」
「え? 違います、スーザンですよ。僕が言っているのは。その子じゃなくて」
「だから、この子がスーザンです」
僕は、頭の中がぐるぐるにからまったようになにも考えられなくなった。この子がスウ……。そんな馬鹿な。
お母さんは、ベビーカーはその場に置いたまま、なおも後ずさりを続けていた。
「この子がスウです。変なこと言わないで。あなたなんて知りません。あっちに行ってください」
ってなわけで、「幻の女」を探す物語が始まる。この三つのラインが並行して語られ、当然の如く最後にはひとつの絵が見えてくるわけなんだけども、帯にあった「最大のトリック」はガチ。たしかにスケールでかかった。すべてはトリックのためにっていう明確な意思も感じられた。
いささか残念だったのは、トリックが炸裂するまでの話にどうも既視感がちらついたことだろうか。わくわく読み進むという行程ではなかったので、せっかくトリックがジャーンと登場しても、「おおおお!」とはならなかった。短編で同じトリックだったら、ひっくり返ったと思うんだけど。気に入る人は間違いなく気に入ると思うんだけどね。お話作るのって難しいな。
ちなみにキンドル版も出ている。確認時の価格は580円。
風の歌、星の口笛 (角川文庫)
村崎 友
KADOKAWA / 角川書店 2004-05-24
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