重力とは何か アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る (幻冬舎新書)
大栗 博司
幻冬舎 2012-05-29
売り上げランキング : 2547
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タイトルの内容が類書よりも踏み込んで書いてあるような気がした(しばらくこの手の本を読んでいなかったのであくまでも印象論)。内容紹介をするほどついていけてない気がするので、「あとがき」から引用すると本書は「重力の七不思議から説き起こし、相対性理論と量子力学の大切なところをきちんと押さえ、さらに超弦理論の最新の発展やホログラフィー原理までを解説する」本である。たしかにそんな順番で話が進んでいた。
取り敢えず目次。
- はじめに
- 「知りたい気持ち」は止められない
- 重力研究がなければGPSも生まれなかった
- 重力研究は宇宙の理解につながっている
- 第一章 重力の七不思議
- 重力は「力」である=第一の不思議
- 重力は「弱い」=第二の不思議
- 重力は離れていても働く=第三の不思議
- 重力はすべてのものに等しく働く=第四の不思議
- 重力は幻想である=第五の不思議
- 重力は「ちょうどいい」=第六の不思議
- 重力の理論は完成していない=第七の不思議
- 第二章 伸び縮みする時間と空間 ――特殊相対論の世界
- 第三章 重力はなぜ生じるのか ――一般相対論の世界
- まずは「次元の低い」話をしよう
- 二次元空間に「球」が現れたらどう見えるか
- 円の中心にものを置いたら中心角が三六〇度より減った!?
- 重力の正体は時間や空間の歪みだった
- アインシュタインの人生最高のひらめきとは?
- 消せる重力、消せない重力
- 回転する宇宙ステーションの中では何が起きるか
- 円周率=三・一四……が成り立たない世界
- 数学者ヒルベルトとアインシュタインのデッドヒート
- 水星の軌道を説明できた――アインシュタイン理論のテストその一
- 重力レンズ効果が観測できた――アインシュタイン理論のテストその二
- 重力波をキャッチせよ――アインシュタイン理論のテストその三
- あてになるカーナビ――アインシュタイン理論のテストその四
- 第四章 ブラックホールと宇宙の始まり――アインシュタイン理論の限界
- 第五章 猫は生きているのか死んでいるのか――量子力学の世界
- 「光の正体は波」で決着したはずが……
- 「光は波」では説明できない光電効果という現象
- 「光は粒」と考えた、アインシュタインの「光量子仮説」
- 放射線障害のメカニズムも「光は粒」で説明できる
- すべての粒子は「粒」であり「波」でもある
- 常識ではとても受け入れがたい量子力学の世界
- 「あったかもしれないことは、全部あった」と考える!?
- 「生きた猫」と「死んだ猫」が一対一で重なり合う!?
- 位置を決めると速度が測れない!? ――不確定性原理
- 量子力学と特殊相対論が融合して「反粒子」を予言
- なぜ未来から過去に戻る粒子がなければならないのか
- 粒子と反粒子が対消滅と対生成をくり返す
- 真空から粒子が無限に生まれてしまう「場の量子論」
- 第六章 宇宙玉ねぎの芯に迫る ――超弦理論の登場
- 第七章 ブラックホールに投げ込まれた本の運命 ――重力のホログラフィー原理
- 粒子のエネルギーが「負」になると何が困るのか
- ブラックホールの中ではエネルギーが「負」になってしまう
- ブラックホールが蒸発する「ホーキング放射」とは?
- ホーキング理論を裏づける宇宙背景放射の「ゆらぎ」
- ブラックホールに投げ込んだ本の中身は再現できるのか
- 一〇の「一〇の七八乗」乗もの状態は果たして可能か
- 「二次元の膜」「三次元の立体」を想定して突破口を開く
- ブラックホールの表面に張りつく「開いた弦」
- 大きなブラックホールは通常の物理法則で計算できた
- 小さなブラックホールの計算は「トポロジカルな弦理論」で!
- エントロピーが体積でなく表面積に比例する奇妙な現象
- すべての現象が二次元のスクリーンに映し出されている
- 量子力学だけの問題に翻訳されたブラックホールの情報問題
- そしてホーキングは勝者に百科事典を贈った
- 第八章 この世界の最も奥深い真実――超弦理論の可能性
- あとがき
あとがきによれば読者対象は著者の高校の同級生で、その人たちに話すようにして書いたとのこと。その際、「説明を簡単にするためにごまかしてはいけない。大切だと思うことはきちんとわかってもらえるように、少しぐらい話が長くなっても丁寧に説明」するよう心掛けたともある。実際、細かいところで読者への配慮があり、どうにかして話について来させようとする気遣いが感じられた。
とはいえ、上に掲げた目次数に対して、289ページ(紙版のデータを参照した)は紙幅が足りなかった印象も残る。使うと読者を置いてけぼりにしてしまう数式をほとんど出さないという縛りも厳しかったのではないかという気がした(ただし、数式使われていたら、おれはたぶん読めないので、ありがたいっちゃありがたかったんだけども)。
いちばん印象に残ったのは、著者が「個人的な話」と断ったうえで述べている学生時代の思い出。大学院生だった著者が六次元空間の幾何学から、素粒子の標準模型を導き出す道筋を示す論文の紹介をした話。
予定時間を二時間超過しても語りつくすことができず、ついに警備員に会議室の暖房を切られてしまいました。所長のご厚意で、研究所で唯一独立した暖房設備のあった所長室を開けていただき、二〇人ぐらいがすし詰めになった部屋で深夜まで議論を続けたことを覚えています。そのとき私は、直接には見ることのできない空間の性質の中に、自然界の法則が書き込まれている可能性があることを、実に美しいと感じました。
ここには伝わってくる感動と臨場感があって、その美しさというものを自分でも感じてみたいと思った。
amazonのレビューは概ね好評なので、おれの感覚が辛すぎるんだろうと思いつつも、上で引用したところ以外は、事実の説明こそ十全なものの、著者が感じている感動が伝わってこないうらみがあった。味気ないと言えば近いのかも。で、その理由はたぶん、分量の制限にあるわけで、いっそ上下巻くらいの分量で読みたかったという気がする。非常に惜しい本という印象。
なお、読んだのはキンドル版だったけれども、紙バージョンもある。
重力とは何か アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る (幻冬舎新書)
大栗 博司
幻冬舎 2012-05-29
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