野崎まど『know』

know
野崎まど

B00FJ1DWH8
早川書房 2013-07-25
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 友人に勧められていた作品。『NOVA+ バベル(amazon)』所収の「第五の地平」がなんとも言えず愉快な作品だったこと、まだ読んでないんだけど『2(amazon)』っていう、背表紙のインパクトが凄い作品の作者として認識していたことなどから、結構な期待値で読み始めた。
 ときは2083年(くらい、たぶん 追記2081年らしい80年に語り手がクラス5を付与され、それが「去年」とあった。でも「そんな可哀想な人間が救われるのが今から三〇年前。/ 二〇五三年。ここ日本の京都で“電子葉”が初めて人に植えられた。」って記述があるんだけども、これは30年前=2053年じゃないのか?)、6歳になると「電子葉」なる情報処理装置みたいなものを脳に埋め込むことが義務化された世界で、スーパーエリートな語り手が恩師から託された桁違いに高性能な少女の冒険みたいなものに附き合うような話だった。少女が何をしようとしているのかが謎で、同時に桁違いな高性能少女を擁する語り手チームがどうしたらピンチに陥ったりするのかというのが、読みどころ(書きっぷりは「いかにしてこのピンチを脱するか」的なんだけど、実際にはピンチを作るほうがよっぽど難易度が高いと思うのね、この設定)で、ところどころとても格好良かった。期待値を超えたかと言われると微妙なんだけど、目一杯期待して読み出した(ということは、がっかりすることを覚悟していたということだ)のだけど、その期待と張りながら最後まで読めたので、ちょっとびっくりした。

 で、こっからはほとんど妄想話。半世紀以上先の時代を設定したSF作品の割に、ここで語られる世界はそりゃあもうびっくりするくらい今誰でも想像できる世界になっていて抜群の安心感があった。正直、読み出したときには、拍子抜けしたくらいだった。主人公のモテ設定なんかも見覚えのある感じだったし、こりゃどうするつもりなんだろと思った。で、最初のピンチっぽいところの戦いは描写が無茶苦茶格好いいんだけど、やってること90年代に見たような絵じゃないか? と思い、この段階では「格好いいけど、けっして新しくない」という印象で読んでいた。さらに話が進んで、日本古代史と軽く接続されたときには、もはやこれは80年代前後まで先祖返りしてねえか? という気がした。ここで「格好いいけど、むしろ古い」という感じに印象が変わった。そしてラストを迎えたときに一気に勝手に驚いたんだけど、素で思ったのが、80年代どころかこりゃあ60年代か70年代の話に新しい服着せたものじゃないかということで、まとめるとこの話は、冒頭から丁寧に00年代の想像力、90年代の想像力、80年代の想像力、70年代の想像力と、その年代ごとの流行みたいなものを遡りつつ起承転結をつけているように読めた(あくまでおれ個人の印象です)。たぶん筋もキャラも台詞も設定の大部分も遠からず忘れてしまうだろうけど、この妙な仕掛け(があるような気がした感じ)だけは、たとえ勘違いであっても(まあ勘違いなんだけど)、ずっと覚えているんじゃないかと思った。

 ところで、これ読んでる途中にキンドルペーパーホワイトのバッテリーが切れたんで思ったんだけど、電子葉って寿命どれくらいあるんだろうね。バッテリーがどうなってるのか気になった。交換するたびに頭部切開するのかなあ(もしかすると説明されていて読み落としただけかもしれないけど)。

 紙版はこちら。
know (ハヤカワ文庫JA)
野崎 まど シライシ ユウコ

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