Edgar Jepson『The Murder in Romney Marsh』

The Murder in Romney Marsh (Black Heath Classic Crime) (English Edition)
Edger Jepson

B01CKJBDYU
Black Heath Editions 2016-03-03
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 タイトル見て、サンプル落としたら抜群に読みやすかったのでそのまま購入してみた作品。ウィキペディアによると発表は1929年で作者のエドガー・ジェプスン(英語表記がタイトルの作者名と書影の作家名で異なっているのは、本書の作成者がミススペかましているからであって、当方の間違えではない)にはここを見る限り、あんまり日本では紹介されていない……のかな。アルセーヌ・ルパンの戯曲のノベライズなんかもしたらしいという話は一冊たちブログの記事で知った。

 話はロンドンの刑事がRomney Marshという田舎町で起きた殺人事件の捜査に向かうところから始まる。四十エーカーの土地の真ん中で見つかった射殺されていた人物がロンドンの人で、そこへは年に数度狩猟のために行っていただけだというので、犯人はロンドンの人間かもしれないと現場を管轄する警察から連絡があって、調べてみたけど被害者はロンドンでトラブルを抱えてなかったし、やっぱりそっちで何かあったんじゃないの、取り敢えず捜査員送るからみたいにスコットランドヤードが対応し、派遣されるのが主人公。田舎町に乗り込んで気のいいジェントルマンになりすまして地元の人に話を聞くけど、こっちにもトラブルらしき話はなく、はてさてってな出だしで、語り手が気になった点が箇条書きにされる親切設計で話が進んでいくのだけど、どうもこの被害者、麻薬の密輸に関わっていたらしいって話が出てきたところから、進み具合が妙な感じになっていく。冒頭から自信満々な感じの主人公が麻薬密輸の匂いを嗅ぎつけるや、殺人事件の捜査より麻薬事件のほうに力を入れ始め、しかもそのことを報告せずに手柄の独り占めを考え始める。主人公は警察を辞めて妹と私立探偵事務所を開くのが夢で、麻薬のほうを解決すれば箔が付くだろうとか考えちゃう。でもって中盤で突然親戚の遺産か何かが転がり込んできて、事務所の開設費用が手に入る。
 もしかしてこれ、主人公が快刀乱麻で推理して話が進んで最後に全部ひっくり返って主人公ピエロだったってオチがつくんじゃなかろうかとやたら期待が高まる。読みやすいからさくさく進み、麻薬密輸関係者の外国人とかも現れ、主人公はわくてかしつつ、ツンデレ若い女と時間を過ごしたりしているうちに、ツンデレな女も麻薬取引に関わっていたのではないかという疑惑が生まれたりして、さあ、どうなるどうなる。

 結論。本邦未紹介の大傑作なんて、そうそう出くわすものではなかった。こんな読みやすくて大仕掛けがあれば、邦訳されないはずがないと気づくべきだったな……。全然関係ないのに、ラスト一行を読み終えたとき思い出したのは、昔見た映画だった。その映画では仲良しの象が誘拐されて主人公がそれを取り返すべくアクションアクションまたアクションで筋も糞もないわあと思ってみていたら、最後に警察署の署長か何かがやって来て、「おまえならきっとやってくれると思ってた!」と無駄に力強く締め、あれこれ全部放り出してエンドロールが流れたのだが、あのときの「はい?」という感じとよく似た気分を味わった。なんともけったいな作品であった。
 いちおう言っておくと、こういうのも嫌いではない。作者が狙っていたのかどうかはわからないけど、しっかりミスリードされてわくわくしたし。まあ、みんな読めとか誰か翻訳しろとかまでは思わなかったけど。